260年25日


今日は僕たち夫婦にとって特別な日だ。
3年前のこの日、僕は彼女にプロポーズをした。
そして、3年後の今日、僕と彼女との間に芽生えた2人目の子供が産まれる…


去年も一昨年もこの日は“プロポーズ記念日”としてデートしてきた。
プロポーズした場所である神殿のアトリウムで。
でも今年は大事をとってデートは中止にした。
また来年この日をお祝いしようね。


この日は僕たち夫婦にはプロポーズ記念日ではあるけど、世間ではギート麦の種植えの日。
僕も例外ではなくきちんと種植えをする。
そして種植えに夢中になるあまり、家の庭にある畑全てに植えてしまってまた妻に怒られてしまう。

「んもう、ユーくんってば!私の分は空けといてって毎年言ってるでしょ!」


そう、毎年やらかしてしまっているのだ…


種植えを終えたら、娘を誘ってウィアラさんの酒場で食事をした。
今日産まれる娘にとっては妹か弟になる子の説明をちゃんとしておかないといけないかなぁって思って。


ねぇトリスちゃん、ママに赤ちゃんが産まれるのは知ってるよね?

「うん、ママの大っきなお腹にはいってるんでしょ?」

うん、そう。
今日産まれるんだよ。

「へ〜、そうなんだぁ」

トリスちゃんは産まれてくる赤ちゃんのことどう思う?

「え〜、うーん、分かんない」

妹か弟が産まれるんだよ!
トリスちゃんはお姉ちゃんになるんだ。

「おねえちゃん…」

そう、お姉ちゃん。
どうかな、お姉ちゃんになれそう?

「うーん、赤ちゃんとなかよくすればいいの?」

うん、仲良くできそう?

「分かんない」

そっか…分かんないか…
実際に赤ちゃんに会ってみないと分からないかな?

「うん、赤ちゃんはみてみたいよ!」

そうか、見てみたいか。
まあ、今はそれぐらいでいいかなw







娘はやっぱり赤ちゃんが産まれるってことの実感がないようだった。
まあ、それは仕方がないだろうと思う。
娘の周りは年上ばかりで、自分より年下のことの交流がない。
自分がお姉ちゃんになるってのがどういうことなのか分からないのももっともだ。


実際に弟か妹を見て、一緒に過ごしていくことで徐々にお姉ちゃんになっていくのだろう。
それでいいんだと思う。


娘と別れてからの僕はと言うと、2人目ともなるともう余裕…というわけにもいかず。
落ち着かないものは落ち着かない。
だからといって妻の側にいてウロウロしてるのは避けたい。
1人目の時はそれで許されたけど、2人目ともなると妻だってそんな僕を見てイライラしてしまうだろう。


そこで落ち着くために禁断の遺跡に探索に行くことにした。
落ち着くために探索…ってのもおかしな話だとは思うけど、幼い頃から探索漬けの毎日を送ってきたので、探索してると落ち着く体質になってしまったのだ。


でも今斧のスキルを育てているところなので、禁断の遺跡なのに斧で挑んでしまっているw
なのでちょっとキツかった。
いい運動にはなったけど。




夕刻になったので家に戻って妻の元へ。
声をかけてみるとやはり妻は余裕だった。

母は強いねぇ。

「2人目だからねぇ」

父は情けないねぇ。

「まあ…自分で産むわけじゃないかなねぇ」

男も産めたらいいのにねぇ。

「ユーくん産みたいの?」

そりゃまあ…産めるもんならねぇ…

「すっごい痛いよ?」

僕さあ、普通の男よりは痛みに強いと思うんだよねぇ。
探索で鍛えまくってるしさぁ。

「ああ、そうね。ユーくんは攻撃されても顔色ひとつ変えずに反撃するもんねぇ」

うん、痛いは痛いけど全然我慢出来るんだよねぇ。

「他の人もそうだって思ってるところあるよねぇ」

ん?

「私が怪我しても、“これぐらい我慢出来るでしょ?”ってば感じで見てるだけだったもんね」

…ダメだった?

「いや、感謝はしてるよ?ユーくんが探索で鍛えてくれたお陰で騎兵選抜で優勝出来たんだし。でも私妊婦なんだけどなぁって、思ってはいた」

そこ気にするくらいなら、子供産んでから騎兵選抜に応募すれば良かったのに。
応募した時にはもう妊娠してたんだから。

「それは…まあ…そうなんだけど…」

そうしてくれれば2年あるわけだから、もう少しゆっくり鍛えることが出来たんだよ?
この1年で鍛えなきゃならなかったからスパルタになるのはしょうがないと思うんだけどなぁ…

「そうなんだけどぉ…そもそも頼んでないっていうか…」

え?待って!
僕が鍛えてなかったらどうするつもりだったの?

「どう…って、まあ自分で探索したりして?」

自分で探索しただけで優勝出来るとでも?
自分のステータスがどれくらいだったか覚えてる?

「………」

僕は君がてっきり近衛騎士隊に入りたいんだと思ってたけど、違ったの?

「…違わないけど」

そうだよね?入りたかったんだよね?
だから希望通りにしてあげようと思ったんだよ?
それにね、入ればいいってもんでもないでしょ?
近衛騎士隊は実力主義なんだから。
実力が伴わなければすぐにクビになっちゃうんだよ?
それでもいいの?

「…良くはないけど」

でしょ?
だからこそ僕は、騎兵選抜に優勝するだけじゃなく騎士隊に入ったあともやって行けるように鍛えてあげようっていう親切心だったんだけど、まさか迷惑がられていたとは…

「迷惑だなんて言ってないじゃない!感謝はしてるってば!…ただ、探索ばっかりでデートの回数減ったなぁ…とか思って、ちょっと………」

何言ってるの、リカちゃん?
探索もデートだよ?

「…はい?」

僕は毎日デートしてるつもりだったんだけど?

「…いやいやいや、探索は探索であって、デートではないでしょ?」

…そんなバカな

「いやいや、どう考えても探索=デートにはならないでしょ?」

だって、だって…
お父さんとお母さんはいつもデートだって言って探索に行ってたし…

「………ああ、なるほど。お義父さんとツェリさんなら言いそうだわね」

えっ…リカちゃんのお義父さんやお義母さんはデートで探索しないの?

「うん、うちの父や母だけでなく、ほとんどの家庭ではデートで探索には行かないわね」

…そんな

「ものすごくショック受けてるとこ申し訳ないけども、巫女さん呼んできてもらってもいい?産まれそうです」

ん?………はあ?
えっ…?
ううううううううう産まれるの?!






妻は痛い痛いと呻き、僕は最初の時と同じように馬鹿みたいに頑張って、頑張ってと繰り返し、最初の子の時と違う巫女さんが落ち着いて…もうすぐですよと言って、何が何やら分からないうちに、スポーンと産まれました!
体感的には1人目の時より大分早かったなぁって感じで、でも妻は1人目の時と同じように大変そうだった。


巫女さんから元気な女の子ですよと教えられて、僕と妻は目を見合せた。
なんとなくだけど、僕たち夫婦は2人目は男の子なんじゃないかって感じてたんだ。
だからつい笑ってしまった。
見事にはずれたねって。





もちろん産まれるまで性別は分からないわけだから、名前は男女ともに幾つか考えていた。
でも、1人目のベアトリスは僕が決めたから、2人目は妻に決めてもらいたいって思ってもいた。

ねぇリカちゃん。
今回はリカちゃんが名前付けない?

「え?私?」

うん、だってトリスちゃんは僕がつけたしさ。
それに、リカちゃんだって幾つか考えてるんじゃないの?

「そりゃ…まあ…」

だったらリカちゃんが付けてよ。

「そお?…じゃあ………ジェニファーってどうかな?」

ジェニファー…
うん、可愛い名前だね。

「ほんと?」

うん、何か意味があるの?

「意味ってほどのことはないの。小さい時にね、お母さんが読んでくれた絵本があって。昔、お母さんのおばあさんが船乗りの人からもらったどこかの国の絵本でさ。アーサー王って人が活躍するんだけど、そのアーサー王の奥さんの名前なの」

へ〜、そんな本があるんだねぇ。

「うん、まあ妹が欲しいって言うから妹にあげちゃったんだけど。私も好きだったんだ。特にジェニファーがね」

そっか…うん、いいんじゃないかな、ジェニファー。
ジェニファーに決定!






そうして僕たちの次女の名前はジェニファーに決まった。
僕と同じ黒い髪に、妻によく似た目をしたとても愛らしい女の子。
僕たちの元へ来てくれた天使。


僕があげたミルクを懸命に飲んでいる愛娘は、ベアトリスと同じように世界一可愛い。
早く大きくなって欲しい。
でも、いつまでも赤ちゃんでいて欲しい。
何だかそんな相反する感情が芽生えたのも、父親になってからだったなぁ。







抱っこしたら何故か泣かれてしまった、まだまだ新米のパパ。
2人目といえど手探りで子育てしてるのに変わりはない。
本当にこれでいいんだろうか?
あの時はああしてやれば良かったんじゃないか…
なんて、ベアトリスを育てながらしょっちゅう思っているけど。


そんな状態で2人目を育てるのなんて、多分時々パニックになってしまうかもしれないけど、それでも一生懸命育てるからね。
失敗しちゃうこともあるかもしれない。
君を怒らせたり泣かせたりすることもあると思う。
でも、きみの幸せをただただ願っているよ。


君の未来がどんなものになるのか分からない。
もしかしたら厳しい現実を目の当たりにするかもしれない。
楽しいことばかりじゃないのかもしれない。


そんな時こそ忘れないでいて欲しい。
ねぇ、ジェニー?
パパは君を愛してるってこと。
君のママや君のお姉ちゃんと同じくらい君を愛してるってことを。
どうか忘れないでいて欲しい。


例えどんな君でも、何時だってパパは君の味方だからね。
だから、この小さな手で、幸せをたくさん掴み取ってね………