262年29日
今年も29日がやって来た。
まあ、当然のことなんだけど。
朝起きてカレンダーを見ながらその日1日何をするかを決めるのが日課。
今日は納剣式だから、娘とのお出かけは昼刻になってからだな。
だったら朝のうちはアンヌとジュニアスくんの様子を見ようか…
ふたりとの探索は夕刻からだな。
そんな風に決めたって結局は予定でしかなく、突発的に何かが起こってスケジュールが変わることもある。
だからこの日課はそんなに重要なものではないんだけどね。
29日は娘ベアトリスの誕生日だ。
今年で4歳になる。
少し前に弟が生まれ、益々おねえさんらしくなってきた…というか、ませてきたというか…
朝食の席でベアトリスのお誕生日を家族みんなでお祝い🎉
あ、まだ産まれたばかりのヒューブはお祝いに参加出来ないから“家族みんなで”ではないか。
ま、まあ“ほぼ”家族みんなでお祝いした。
朝食後に誕生日プレゼントとして南国の花束をプレゼントすると、ベアトリスはとても喜んでくれた。
「うわぁ、きれい。パパありがとう」
気に入ってくれて良かった。
「なんか大人の女の人になったみたい」
ん?
「だって街門広場でね、男の人が女の人に花束プレゼントしてるのなんかいも見たことあるもの。あれはこいびとどーしなんでしょ?」
え?あ、ああ、うん…
「うふふ、だからパパとわたしこいびとどーしみたいね♡」
ええ?!
「ちがうよ、おねーちゃん。だってパパはジェニファーにもはなたばくれたもん。だからパパとジェニファーがこいびとどーしなのよ?」
ちょっ、へ?はぁ?
「うそ!パパってばジェニーちゃんにもあげてたの?他の女にもあげてたなんてサイテーよ!」
ほ、他の女って!
いや、トリスちゃん落ち着こう。
誕生日プレゼントにトリスちゃんにもジェニーちゃんにも同じものをあげただけでしょ?
「信じられない!」
び、ビックリしたぁ。
どうしたの、リカちゃん?
「ユーくんが花束を贈る相手は私だけだと思ってたのに!」
はあ?
妻は両手で顔を覆って肩を震わせ始めた。
それを見た娘たちは、母親が泣いていると思ったようでこちらをキッと睨みつけた。
「パパがママを泣かせたのね!」
「パパったら、ママにあやまりなさい!」
え、ええ?
ちょっ、リカちゃ〜ん。
僕は知っている。
妻は泣いてなどいない。
笑いを堪えてるだけだ。
妻が本当に泣く時は、顔を覆ったりはしない。
妻はただ、この状況を面白がっているに過ぎない。
とはいえ、そんなこと子供たちに説明したところで理解してもらえるかどうか…
仕方がないので僕は妻に謝った。
リカちゃんごめんね?
「ママ、パパがあやまったから許してあげよーね?」
その言い方が妻にそっくりで、僕も、そして当の妻も笑いだしそうになってしまった。
しかし、子供たちはそんなこと気づかないから、ぼくが謝ったことで解決した様子でそれぞれ遊びに出かけて行ってしまった。
当初の「姉妹に同じものプレゼントした件」については、すっかり忘れてしまったようだ。
もぉー、リカちゃん!
「ごめーん、なんか面白いことになってたから参加した方がいいかなって」
それにしたってさぁ…
僕が姉や叔母にだって花束プレゼントしてたこと知ってるくせに。
「だからごめんって。それにしてもトリスちゃんったら、ませてきたわねぇ」
言い方がリカちゃんそっくりだったよ。
「確かに。私がいつも言ってるのよねぇ。あの子たちがケンカすると“ほら、○○ちゃんが謝ったから許してあげよーね?”って」
やっぱり、子供は親の言ってること真似するんだねぇ。
「そうねぇ。ああ〜嫌だ。迂闊になんか言えないじゃないの〜」
確かに、気をつけなきゃね。
娘の誕生日に、親として子供の手本にならないような言葉は使うべきでは無いなぁと、考えさせられた出来事だった。
今回は特に真似して欲しくない言葉ではなかったけど(“他の女”っという言い方はどうかと思うけど)、多分僕たちは今まで子供たちの前で真似して欲しくない言葉を言っていたこともあるだろうなって、反省したんだ。

さて、今朝の予定ではアンヌやジュニアスくんの動向を見守ろうと思っていたんだけど、家でドタバタコメディやってたらいつの間にやら朝3刻になってしまっていて、とっくにアンヌがジュニアスくんに会いに行った後だった…
まあ、会いに行ったんだから文句はないんだけど、出来ればどんな会話だったか見守りたかったなぁって…


昼1刻からは納剣式。
見てわかるように、今年は2名の欠員が出た。
致し方がないこととはいえ、やはり寂しい。
ただ、近衛騎士隊が少し若返った感じがする。
14名中4名が熟年(サナさんは毛染めを使っているので白髪ではないが熟年である)という、近年稀に見る熟年の少なさだ。
国王さえも若返っている。
…なんてことは冗談でも言ってはいけない。
数日前に前王が身罷って以来、僕は喪失感を拭えずにいる。
前王は、親友であり従兄弟だった。
その息子である現国王も親友ではある。
親友に優劣をつけるつもりなんて毛頭ないが、やはり前王イェルシーは特別であったと言わざるを得ない。
未だに国王姿のアンブローズに違和感を感じてしまうのも、イェルシーを喪ったことを認めたくないからかもしれない。
実は、諸事情がありイェルシーを看取ることが出来なかった。
翌日の葬儀には参列出来たものの、その最期に立ち会えなかったことがずっと凝りとなって胸にあるのだろうと思う。
いい加減、気持ちを切り替えなければとは思っているのだけれど…




納剣式を終えた僕は、一目散にベアトリスの所へ行き酒場へと誘った。
娘と食事をしながら交わした会話の「わたしはもうすぐ大人だからね♪」が、リアリティを持って胸にささる。
そうだ、ベアトリスはあと1年と少しで成人なのだなぁ…と。
ベアトリスは29日生まれだから、5歳になった2日後には成人なのだ。
なんだか複雑な心境になってしまう。
早く一人前の大人になって欲しいという想いと、ずっと子供のままでそばにいて欲しいという想い。
ずっと手元に置いて、大事に大事に、誰にも渡さないで愛していたい。
でも、1人で地に根を張って、夢に向かって努力して成長していく娘が見たい。
どっちも本音なのだ。
複雑な心境はきっといつまでも続くんだろうな、と思いつつもうひとつの誕生日プレゼントも渡した。
ジェニファーにはいむぐるみだったけど、もう4歳になったベアトリスにいむぐるみはなかろうと思って人魚の絵本にした。
喜んでくれたようで本当に良かった。







