263年4日



今年もこの日がやって来た。

僕にとって一番大事な日。

そして、僕の一番忙しい日。



毎年4日は妻の誕生日で僕たち夫婦の結婚記念日だ。

まずは朝食の席で、家族揃って誕生日のお祝いを。



その後、結婚記念日のプレゼントとして花束を渡したら、お次はニヴの丘へのデートに誘った。







「ねぇユーくん。今年はいつもの服着ないのね」


そうなのだ。
僕たちは毎年結婚記念日にはお揃い鮮やかな黄色いシトラスのサマードレスを着ている。
僕が好きな服であるということが最大の理由ではあるんだけど、シトラスのサマードレスは母が好んで着ていた服で、父もこのドレスを着た母が特に好きだった。
だからこそ、僕の理想の夫婦である両親のお気に入りの服を、結婚記念日に夫婦で着たいと思ったのだ。


ただ、今年はフラワーランドの新作服を着ている。
この春らしい桜色のドレスが妻にとても似合っているからなのだが、実は…

うん、この服が気に入ってるしリカちゃんに似合うからってのもあるんだけどね。
ほら、今日寒いでしょ?

「確かに。例年に比べると寒いわよねぇ」

まあ春になったばかりで、元々夏用のサマードレスは肌寒い思いしながら着てたけど、流石に今日は寒すぎるかなぁって。

「そうね、今頃震えて歯が鳴ってたわね」


男の僕は一応シャツにベストだからいいけど、女性のシトラスのサマードレスは、ミニスカートだし背中ざっくり開いてるしノースリーブだから肩から腕から全部出てるし…という、可愛いけどなっ以外に着るとちょっと寒いよね、というデザインなのだ。
それを毎年少し無理して着てもらっていた。
でも今年の春は中々暖かくなってくれない。
流石に妻に着てもらおうとは思えなかったのだ。


だからさ、5年目の結婚記念日はこの服でお祝いしよ?

「うん。私この桜色すごく好きだし」

リカちゃんに似合ってるよね、桜色。

「本当?嬉しい♡」





その後続けて神殿のアトリウムデートに誘った。
今度は妻の誕生日を祝うため。

僕たちもう16歳なんだよなぁ。

「ほんと、嫌んなっちゃう」

リカちゃんはいつまでも可愛いからなぁ〜。

「んも〜、ユーくんったらぁー⸝⸝⸝⸝。ユーくんこそいつまでもカッコイイじゃない?」

ほんと?まだいけるかなぁ?

「何が?」

アイドル?

「ああー………イケるイケる〜」

…なんか棒読みじゃない?

「そんなことないわよ〜。ユーくんはいつもカッコイイもの」

ほんとにそう思ってる?
“この歳にしてはかっこいいけど、アイドルとしてはとっくに賞味期限切れてるでしょ”とか思ってるんじゃないの?

「…被害妄想がエグいわねぇ」

はぁ〜、僕いつまでアイドルやってられるんだろう。
マリアンも成人しちゃったしなぁ〜。

「マリアンって誰だっけ?」

ああ、リカちゃんは知らないかもね。
最年少の僕のファンだよ。
 
「…へぇー」

なんか疑ってる?

「だから被害妄想…」

ほんとにファンなんだから。
“龍騎士さまのお友達にしてください”って、まだよちよち歩きの時に来たんだから!

「アイドルってより、龍騎士として憧れてたんじゃ…」

ん?なに?

「ううん、なんでもない。というかね、これ私の誕生日のデートよね?ユーくんの悩み相談のデートじゃないわよね?」

………そうだった。
すいません_|\○_




気を取り直して花を見ながらあれやこれやとお喋りして、いい雰囲気になったところでキスをした。
ああ僕たちはまだこんな恋人同士のようなデートが出来るんだねぇ、なんて言うと妻が大いに照れて、その顔がたまらなく可愛かった。







ひとまずそれぞれ別行動をすることにして、僕は噴水広場にやって来ていた。
というのも、アンヌ(前王の娘)が噴水広場で出店していたので、冷やかしながらも何か買ってあげようかなって思ってね。


そうしたら、予てからアンヌとの仲人をしている僕の年若い親友ジュニアスくんがやって来て、何やらアンヌと喋ったかと思うと2人で移動し始めた!
えっ?
ハート飛んでなかったか?!


慌てて2人を追う。
噴水通りを街門広場の方へと歩いていく2人。
この方向はもしかして…?
僕は期待に胸を膨らませていた。
 

そして街門広場に入った2人は右折して幸運の塔へ…
ぃよっしゃーーーーーーー(*。>∀<)9"ッシャ!
無事、ジュニアスくんとアンヌは恋人になりましたー🥺


この瞬間こそ仲人の醍醐味。
ああ、アンヌの出店を見にこなければ見逃してしまっていた。
僕の判断すごくない?(自画自賛)
いや〜、僕グッジョブだよねぇ〜w


亡き親友の娘アンヌと、新しく出来た年若い親友ジュニアスくん。
幸せになるんだよ🥰





アンヌたちを見守っていたら昼3刻になってしまっていた。
ああ、すっかりお腹が空いてしまった。
そうだ、アンブローズに会いに行こうといてたんだった!


息子と出かけていたアンブローズに声をかけたら、彼もまだお昼を食べていないってことなので2人で酒場へ。
今日はアンブローズの誕生日なので、酒場でお祝いしようと思ってたのだ。
誕生日を祝ってウィアラさんがサービスしてくれたポムワインで乾杯して料理を味わった。


ああ、ようやく腹がくちたなぁ。
今日は本当にいい日だぁ〜。

「ん?ああ、今日は結婚記念日なんですよね。毎年結婚記念日デートの合間に誕生日を祝ってもらえて嬉しいですよ」

ああ、うん。それもそうなんだけどさ。
アンヌにようやく恋人が出来たからさぁ。

「………え?ええ?!アンヌに?!」

うん。ほらジュニアスくんと。

「は?ジュニアスくん?」

おん?言ってなかった?
僕の親友ジュニアスくんとアンヌの仲人してたの。

「聞いてません!聞いてませんよユーリさん!」

ちょっ、そんな大声出さなくても…
あのさアンブローズ。
君だって兄としてアンヌのことは心配だったろ?
8歳になっても恋人出来なくてさ。

「そっ…それは、まあ…確かに…」

別に本人が良ければいいんだよ?
何歳になろうと恋人いなくたってさ。
でもアンヌはさ、いい人がいたら…って感じだったからジュニアスくんを紹介したんだよ。

「それは…ありがとうございます。でも〜」

まあね、君の気持ちも分からんではないよ?
父親が亡くなって、自分が父親代わりしないとって思ってるんだろ?
でもアンヌだってもう8歳なんだし、君だって妻も子もいるんだからそっちを大事にしなきゃだろ?
アンヌには一緒に並んで歩いて支えてくれる人が必要なんだよ。

「そういうもんでしょうか?」

今さ、アンブローズは落ち着いて見えるよ。
イェルシーが亡くなってからまだ10日くらいしか経ってないけどさ。
国王になって責任もずっと重くなったのにさ。
それはどうしてだい?

「それは…イリアナとマリオの存在ですねぇ」

でしょ?
やっぱり妻や息子がそばにいてくれるからだろ?
それはアンヌも同じだよ。
父親っていう大きな存在を喪ったんだから、誰かが支えてあげなきゃ。
ジュニアスくんはアンヌよりひとつ年下だけどさ、しっかりしたいい子なんだよ。

「そうですねぇ。アンヌももう子供じゃないですもんねぇ…」


兄として妹に恋人が出来るというのはどんな気持ちなのだろうか?
僕には妹がいないから分からな…
いや、妹はいなくても姉がいる。
昨日誕生日を迎えて熟年になった姉が…
そういえば姉に恋人が出来た時、僕はまだ子供だったけど、姉の恋人にやたらと腹が立ってたものなぁ。
今はもうそんなことはないけど、未だ義兄と2人っきりになるのは気まずいしなぁ。
アンブローズもそんな感じなんだろうか?




夕4刻。
まるで冬に戻ったかのような寒さに、これはバシアス浴場で温まってから帰った方がいいなと判断した。
どうせなら妻も誘って結婚記念日デートの続きをしようと、畑仕事に精を出していた妻を誘った。


妻は寒いと言うよりも、畑仕事で付いた泥を落としたかったようで嬉々として着いてきた。
道中、今年は朝と夜の寒暖差が激しいから、少し甘みのあるギート麦が採れそうだね、なんて話をしながら。


妻はお湯に入るなり「ああああああああぁぁぁ」という声を出して気持ちよさを表現していた。
どうやら泥汚れが気になっていて気付いてなかったが、温かいお湯に入って初めて手先や足先が冷えてたことに気づいたらしい。
ほくほく顔で湯に漬かっている。


そんな妻の顔を見ていると、つくづくと「結婚して良かったなぁ〜」と思うのだ。
きっと結婚してなかったら見れなかった顔なんだろうと思う。
恋人という夫婦は違う。
例えどれだけ長く一緒にいても、恋人のままならばいい所だけを見せようとしたと思う。


もちろん結婚して夫婦になったって、出来ればいい所だけを見せたいと思ってはいるが、現実問題そうはいかない。
ひとつ屋根の下に暮らすということは、かっこ悪い所も見られてしまうし見てしまう。
でもそれでもいいと思える人と結婚するということが、幸せというものなんだと思うんだ。


妻の、良く言えばほくほく顔、悪くいえばだらしのない弛緩した顔を見れるということが結婚の醍醐味のような気がしているんだ。
妻のそんな顔を見ても幻滅することなく、「ああ可愛いなぁ」と思える今この時こそが幸せなんだと実感して、何となく目の奥が痛くなった僕は慌ててお湯に潜り込んで、僕たち夫婦以外には誰もいない浴場を泳いでみた。
「も〜ユーくんったら〜、子供みたいなことしないの!」と、妻に叱られながら…


家に帰って子供たちが寝たのを確認してから、まるで新婚の時のように同じベッドに入りシーツを被ってじゃれ合った。
子供たちが起きてしまわないようにクスクス声を殺して笑ったり、でも時々ふと冷静になって「僕たちもう16歳だよね?」ってなったり、でも冷静になったらとんでもなく気恥ずかしくなっちゃうのでどちらからともなく擽りあったりしながら僕の一番忙しい日は終わったのだった…