263年25日



毎年25日は国民総出でギート麦の種を植える日だが、僕にとっては愛娘ジェニファーの誕生日の方が重要だ。

本来なら朝から娘と誕生日デートと洒落こみたいところだが、ジェニファーは今年からナトル学舎に通い始めている。

「学校サボってお出かけしようぜ!」なんてことは、親としては口が裂けても言えない。

仕方がないので学校の終わる昼刻までは、僕も国民の義務を果たそうと考えながら朝の支度を終えて食卓についた。



朝食の席で家族みんなでジェニファーの誕生日を祝う。
ベアトリスとヒューブがハッピーバースデーの歌を唄い、ジェニファーはニコニコと嬉しそうに聞いていた。
ベアトリスは音感がいいのか綺麗に歌い上げるが、ヒューブは声が大きいだけで調子外れの歌を得意そうに歌っていた。


僕と妻は手拍子をしながら子供たちの歌を聴いて、ニコニコしたり目を合わせて苦笑いをしつつ最後のワンフレーズだけ一緒に歌ってジェニファーを祝った。
ジェニファーは嬉しそうに「ありがとう」とはにかんでいて、ただ無邪気に喜んでいた去年とは違い、みんなが自分を心から祝ってくれていることの嬉しさと、自分が注目されていることへの若干の照れとが綯い交ぜになったそんな表情に、この1年の成長が見えて嬉しかった。


朝食後、誕生日プレゼントを渡した。
今年から学校に通い始めて文字も習ったことだろうし、そろそろ1人でも読めるだろうと思い人魚の絵本をプレゼントしたらとても喜んでくれた。
ただジェニファーは「寝る前に読んでくれる?」などと聞いてきた。
もう自分で読めるでしょ?と言ったら、「絵本は読んでもらうのが楽しいのにぃ〜」とむくれていた。
どうやらまだまだ子供だったらしい…







子供たちが一斉に外に飛び出していき、それを確認してから妻と少しだけイチャイチャした後、僕は自分の農地がある農場Cに足を運んだ。
自分の農地があるとはいえ、僕自身はそこを使ってはいないんだけど。
何せ自宅の庭に畑があるので、そこで事足りてしまうのだから。


だが、麦の種を買ったり育てた麦を納品するのは農場Cに決めている。
まあ、特に理由があって決めたわけではないんだけど…


今年の農場Cの担当にはアンヌがいた。
交際から結婚までトントン拍子に進んだ新婚さんだ。
夫である僕の親友ジュニアスくんは見事騎兵選抜で優勝して、来年騎士隊入隊が決まっている。
そのせいなのかアンヌは張り切って仕事をしていた。


随分と忙しそうだったので声はかけなかったが、アンヌの方も僕には気づいていたので帰り際軽く手を挙げて挨拶すると、アンヌはニコッと笑って軽く会釈してくれた。


種を持って家に帰った僕は手際よく植えていき、昼には種蒔きの作業を終わらせることが出来た。
なのでゆっくりと歩きながらナトル学舎へと向かい、授業を終えたジェニファーに声をかけた。






給食を食べたばかりなのは承知しているが、やはり誕生日にはウィアラさんの美味しい料理を食べさせてあげたい親心。
酒場でご飯食べない?と誘うと、ちょっと前に給食を食べたとは思えないほど目を輝かせて「いくー!」と大きな返事が返ってきた。
うん…まあ、予想はしてた笑い泣き


酒場に着いてウィアラさんに料理を注文して席につき、改めてジェニファーに誕生日おめでとうと言うと、娘は「ハッピーバースデーの歌は歌ってくれないの?」と言ってきた。
なので他のお客さんの迷惑にならない程度の小さな声で歌ってあげたら、それで満足したのか料理を食べ始めた。


ジェニーちゃんは大きくなったらどんなことやりたい?

「んーとねぇ、騎士の人みたいにかっこよく魔獣をたおしたい!」

あっ、騎士になりたいの?

「うーん、騎士隊じゃなくてもいいけど、かっこよく魔獣をやっつけられる人になりたいの。ママみたいに」

マ、ママみたいに?
あの、パパも騎士なんだけどなぁ。
それにほら、龍騎士でもあるしね。

「でもパパは男の人だもん。ジェニファーは女の子よ?だからママみたいになりたいの!」

あ、ああ、なるほどね。
そういう事ね…ε-(´∀`;)ホッ

「つよくなりたいなぁ〜」

ジェニーちゃんは強くなりたいのかぁ。

「うん、すっごーくつよくなって、かっこいい女の人になりたいんだ。それでかっこいい男の人のお嫁さんになるの」

おおおおおおおおお嫁さん?!
いやいやいやいや、まだ早いんじゃないかなぁ。

「大人になったらお嫁さんになるでしょ?」

そりゃまあ…いずれ、いずれね?
でも今からそんな事考えなくていいんじゃないかなぁ。

「そうなの?大人になったらけっこんしないとダメなんじゃないの?」

そんなことないよ。
結婚って言うのはね、本当に大好きだなって思った人とするんだ。
結婚しないといけないからするわけじゃないんだよ。

「じゃあ好きな男の人がいなかったらけっこんしなくていいの?」

うん、そうだね。
結婚は無理にするものじゃないからね。
でも、きっといつかそういう人がジェニーちゃんにも現れると思うよ。
パパにとってのママみたいな人がね。

「パパはママのことが大好きなんだね」

そりゃそうだよ。
結婚してもいいって思えたぐらいの人だからね。
パパはずーっとママのことが大好きなんだ。

「ジェニファーよりも?」

うーん、それは…ちょっと説明が難しいなぁ。
あのね、パパがママを好きって気持ちは、パパがジェニーちゃんやトリスちゃんやヒューブくんのことを好きって気持ちとは違うんだ。

「どう違うの?」

うーん、言葉で説明するとなると難しいんだけどね。
きっといつかジェニーちゃんにもわかる日が来ると思うよ。
家族と同じくらい好きなのに、でもちょっと好きの意味が違うなぁって人が現れると思う。
その人のことを考えると、全身が心臓になったみたいにドクンドクンってなっちゃう人が、ジェニーちゃんにもきっと、ね?

「ドクンドクン?」

そう、そういう人が現れた時、今パパが言ってることが分かるんだと思うよ。

「ふーん、そうなんだぁ〜」

今はまだよく分からないよね?

「うん、ぜんぜんわかんない」

今はそれでいいんだよ。
いつかきっと分かるから。

「そのときはどーするの?パパに言えばいいの?」

ん?おおぅ、んん?
いや、まあ言っても言わなくてもいいけども…
てか、知りたいような知りたくないような…

「…なんかパパ泣きそうなかおしてるよ?」

そ、そう?
ハハハ、何でだろうねぇ…
あ、ああそうだ!
ジェニーちゃんは強くなりたいんだよね?

「うん、なりたーい!」

じゃあご飯も食べ終わったことだし、今から森の小道に探索に行こうか。

「うん、いくー!」

よし、じゃあ出発だー!







という流れで森の小道へ。
途中行き会ったベアトリスも誘って。
愛娘2人に挟まれての探索も悪くない。


危なくなったら手を貸そうと、とりあえず防御だけして様子を見ていたけど、娘たちは2人だけで全ての魔獣を一掃してしまった。
この2人には森の小道じゃ物足りなかったようだ。









森の小道を出た娘たちは、出入口のすぐ近くにある草むらで草の実探しを始めた。
娘2人が、腕どころか身体まで草むらに突っ込んで採取している様があまりにも可愛くて少し離れた所から見守っていたら、ベアトリスがハナムシを見つけたとやって来た。


一瞬逃がしてあげようと言いかけたが、なんだかドヤ顔で僕にハナムシを差し出すベアトリスが可愛すぎたので、あとでこっそり逃がしてあげることにしてその場では受け取っておいた。
すると嬉しそうに笑うので、ああやはり受け取って正解だったのだとホットした。


すると姉のそんな姿を見たからなのか、ジェニファーもガーブ草を持ってやって来た。
ベアトリスとは違い料理で使えるガーブ草なところがジェニファーらしい。
じゃあこのガーブ草でエンツの香草焼きでも作ってジェニファーにあげようか。






草むらでの草の実探しに飽きたらしいジェニファーを、今度は虫探しに誘った。
今日は国民が畑仕事に夢中になっているせいか東の森はあまり人がねいなくて、誰にも邪魔されることなく2人っきりで虫探しを楽しめた。
いつもは大体混んでいて、可愛い娘とのデート感を存分に楽しめないからなぁ〜。