ジョン・エリオット・ガーディナー指揮、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ。クラウディオ・モンテヴェルディ、「ポッペアの戴冠」(1993)。
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最近聴いた音源について書きます。
まずは最近再販されたガーディナーの「ポッペアの戴冠」です。個人として、「ポッペアの戴冠」自体初聴になります。
久しぶりに「初めて聴く曲」を、「とても素晴らしい」、と思いました。
極めて美しい音楽で、寂寥感と哀愁、爽やかさと深い情念とが一体になった作品は奇跡といって過言ではありません。まさに天才の作品といえるでしょう。不道徳とそれを達観した愛情とがここにはあります。
ガーディナーの指揮しているのは管弦楽で装飾されていないナポリ稿です。現在「ポッペアの戴冠」にはこのナポリ稿とヴェネツィア稿が存在しており、ヴェネツィア稿の方が派手な効果を狙った管弦楽となっています。自分はヴェネツィア稿も聴きましたが、このガーディナーの演奏したナポリ稿がの方が断然良かったと思います。
ビーバーの「ロザリオのソナタ」を聴いているときに思ったのですが、時にバロック楽の底辺には、静けさと内面を見る深さが、存在します。かの時代の囚われの少ない、自由な人々の心情と生き方とが、ルネサンス時代からの引き継がれたエウロペアの空気を伝えるようです。
ガーディナーの指揮する「ポッペアの戴冠」にはそれと同じ空気があり、どこまでも人の心情にしみわたるとともに、その独特な爽やかで哀愁を帯びた美しい音楽が、「格別に」素晴らしいです。
アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、「ブルックナー交響曲3番」(2016)。
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新譜です。イエロー・レーベルによる、ネルソンスによるブルックナー・チクルス第一弾ということだそうです。
テンポはやや遅め、じっくりと細部まで丁寧に演奏しています。美しいと思いますし、繊細で丁寧な美しさを楽しむ要素はあり、そこは楽しいし、実際そこを期待して購入しました。だから演奏の出来には満足しています。
ただブルックナーを聴く場合として、どうしてもネルソンスを聴きたいかといえばそうとはいえない演奏でしょうか。つまり、色々ブルックナーの演奏を聴いた人がたまに毛色違う演奏を聴きたいと思う時に聴く、贅沢品な気がします。
しかし、最近の指揮者は音色そのものを、自分色にデザインしていることが多いと感じています。それを特に感じたのはアバドぐらいからですが、ティーレマンにしろ、ラトルにしろ、柔らかい絹のような柔軟な音色と、時には自分好みな色彩感を身に着けているように思います。アバドやチェリビダッケの影響なのでしょうか。
もっといえばカラヤンからですが、あれは彼が晩年に至って、作り上げた豪華絢爛な美でした。チェリビダッケにしろ、そういうことが許されるなら、ということで最近の指揮者は「意識的に」音色を作り出しているように思います。
昔の指揮者でも「自分の音色」を持っていた、といえますが、それはもっと「地金」のむき出しの音色でした。カール・ベームの演奏を聴けば、決して洗練されてないが、確かにカール・ベームの音がします。しかしそれは彼らが曲の内容を引き出すのに必死で、音のテクスチャーにそれほどこだわらなかったからだといえます。
最近はこのネルソンスの演奏を含め、音色のテクスチャーにこだわり、丁寧で繊細な音がします。曲の内容については、ほぼ過去の大家が掘り起こしつくし、今の指揮者はそれを情報として共有していると思います。
ネルソンスのこのブルックナーについては若干チェリビダッケの影響があるような気がしますが、音は硬質で、漏らしのない演奏、必要なことはしているように思います。新時代を感じさせる演奏には違いないようです。
スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ指揮、ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、「ブルックナー交響曲5番」(2015)。
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最近は緩めのブルックナー演奏ばかり聴いていました。
どうしてもブルックナーを聴きたいというよりは、楽しんで聴きたいということを優先してきました。
パーヴォ・ヤルヴィのブルックナーを聴くと音色がカラフルで面白い、とか、ネルソンスでいえば、繊細な音色で近代的に響くブルックナーはどうなのだろうか、とかいう興味を優先していました。
そこにスクロヴァチェフスキのブルックナーを持ってくると、演奏のあまりの厳しさにびっくりします。ギュンター・ヴァントの小型版というところでしょうが、指揮者の身体に身に着いたブルックナーの感性が「面白い」とは別の次元で音楽を聴かせてくれます。「面白い」演奏は直に飽きますが、何度聴いても耐えうるのはこういう演奏でしょう。
純粋に名演だと思います。第一楽章とフィナーレのコーダの伸びやかな美しさが素晴らしいです。


