F.ハーバート著「デューン」、 矢野徹訳。ハヤカワ文庫。
三部構成になっており、邦題は第一部が「砂の惑星」、第二部が「砂の救世主」、そして最後の第三部が「砂丘の子供達」となっている。
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これは1960年代に発表されたSF小説の古典です。
この作品で描かれるのは、はるかに遠い未来、砂の惑星アラキスで繰り広げられる人類の権力争いの物語。
生態学などを小説に組み込む事によって、エコロジーに対する覚醒をうながした歴史的なSF小説で、なかなか読みごたえがあります。
細部まで決められた詳細な設定と、砂漠を主体とするアラビアを思わせるエキゾチックな世界観も新鮮。
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とにかく読んでいると、熱い砂漠の熱気と焼けた砂の臭いが伝わってくるような印象があり、砂漠の民のフレーメンやアラキスに生息する巨大なサンドウォームなども忘れがたい印象を残します。
そして、ここで描かれる世界観の影響はあらゆるSF作品から見ることができるはずです。
特に欧米のSF作品に出てくる砂漠の印象はこの作品から離れがたい気がします。
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日本の哲学者、和辻哲郎は名著「風土」の中で、地域ごとに異なっている地球の気候が、そこに住む人々の性質を決める一つのファクターになる、として論を展開しています。
和辻哲郎著、「風土」。岩波文庫。
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和辻は「風土」の中で、特にアラビアやアフリカを代表とする砂漠に住む住民は、何もない砂漠から、「有」を得るための格闘的精神を引き継いだとし、その精神はキリスト教や回教を通じて、アラビアはもちろん、ヨーロッパまで影響を及ぼした、としています。
これは我々大人しいアジア人には疎い性質で、パイオニア精神とでも言いましょうか、そうした性質がユーラシア大陸の西側に多くみられ、そこに住む民族の精神として引き継がれていると言います。
だから見ようによって、パイオニア精神を持つ人々にとっては「砂漠」とは言うのは、どこか精神的な故郷を思い出すのかもしれません。
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ジョージ・ルーカスのSF映画「スター・ウォーズ」でも、英雄となるルーク・スカイウォーカーやその父であるアナキン・スカイウォーカーは砂漠の惑星である「タトゥイーン」で生まれるか育つかしています。
新しい事をなし、パイオニア精神を必要とする英雄ならそれも納得と言ったところでしょうか。
そして、このF・ハーバートの「デューン」ですが、やはり小説の世界で繰り広げられる政治的葛藤は、新しいものを見いだそうとする作者の労作とでも言えば良いかもしれません。
全体の中で面白いのは第一部の「砂の惑星」でしょう。
第一部では、主人公のポウルが砂漠の民フレーメンを引きつれ、激しい政治的闘争にのみこまれていきます。
この第一部だけで一応の完結をみており、物語の展開も後半のように観念的に過ぎず分かりやすいです。
後半の「砂の救世主」から「砂丘の子供達」に至る展開は、作者が人類の生き方と政治的あり方に一定の解決を与えようという試みです。
しかし、個人的には余り納得の行く展開ではありませんでした。
ちょっと哲学的で観念的に過ぎる気がします。内容的にも無理があると思われます。

