「スパイって、ieなんだ・・発音はアイ?
母音が続いてるけど、e じゃなくて、i を読むのか・・
じゃなくて、スパイって y じゃないの?・・」
いや、ほんとにどうでもよかった。
複数形だからyがiesになった。 私が複数形だってことに気づいていなかっただけ。
そう、原題は「スパイズ」 。 「スパイたちの橋」
冷戦当時、国交のない東ドイツとアメリカが捕まえたスパイを交換する、という、言ってみれば、それだけの話なんだけど。
冒頭、マーク・ライアンス=ドイツ人アベルが、NYらしき町を歩いていく。
その後を追う男たち。
すれ違う人達、道路をふさぐ群衆。みんなみんなスパイに見えてしまう。
「みんな スパイ」、あれは、星新一?別役実? などとまたツマラナイことを思いつつ、レッドパージの暗黒時代のアメリカの風景を目で追う。
すっかり考え深い風貌になったフォレスト・ガンプに気を惹かれて、みようって気になった。
だけど、トム・ハンクスよりもずっとずっといいのが マーク・ライアンス=ドイツ人アベル。
しがない絵描きというか、絵が趣味みたいな、気弱そうな男。
いきなりCIAにアパートに踏み込まれ、スパイだと決めつけられ、裁判にかけられる。
なのに、「しかたない」みたいな諦め顔で・・・・という風にみえる初老の男。
ほんとはもっと若いのかもしれないけど、老けてみえる、覇気のない男。
ところが、このスパイ容疑者アベルの弁護をすることになったトム・ハンクス=ドノヴァン弁護士は、アベルと話すうちに、アベルに敬意を抱くようになる。

アベルが子供の頃、自国東ドイツでの体験を話す。
殴られても殴られても立ち上がり、ついに「不屈の人」と呼ばれた叔父の話をする。
ハンクス=ドノヴァンは、次第にアベルの人格に惹かれていき、その一方で、CIAが捜査令状なしに家宅捜索をし、逮捕し、国民はマスコミに煽られて有罪・死刑を求める、判事さえもその風潮に迎合する、自分の「祖国アメリカ」に疑問を抱くようになる。
出身としてはアイルランド人であるドノヴァンは、自分の良心とアメリカ憲法に忠実であることを誓った人間が「アメリカ人」という信念をもっている。
多民族国家、移民の集合体アメリカでは、「アメリカ憲法を守ることを誓った人間=アメリカ人」という定義がごく当然なのだ。
したがって、ドノヴァンには、ドイツ人でアメリカに長くすんでいるアデルも、アメリカ人として当然、アメリカ憲法に守られなければならない。
でないと、ドノヴァン自身の法律家としての信念が脅かされる。
ところが、時はマッカーシー旋風、赤狩りの時代。
ドイツでは、ベルリンの壁が築かれ、冷戦が激化し、米ソはお互いにスパイを送り込み、スパイとみなした人物を、アメリカもソ連も不当な裁判でさばいている時代。
ドノヴァンは人間としての良心、法律家としての信念、そして、おそらくはアメリカ人としてのプライドを維持するために、つまり自分自身を否定しないために、出来る限りの知恵をしぼり、判事と交渉する。
そしてアベルの死刑を回避する。民衆からの非難・攻撃の嵐。
とっさに、「アメリカ=リンチの国」ということを思い出す。
「民衆のリンチ=法律」から「アメリカ憲法」までの道のりは、長く辛い道だったんだから、法律家ドノヴァンは、自分の生きる道として、リンチとは戦わなくちゃならないわけだ。
でも、それは家族にも危害が及ぶ選択だ。
ドノヴァンの心を支えとなっていたのは、アベルの「不屈の人」という言葉。
ただの一介のアメリカ人、保険担当弁護士であるドノヴァンが「政治」に直面し、戸惑いつつも自分の信念を維持しようとする意志が、「フォレストガンプ」に重なる。
スパイ交換の交渉のためドイツへ行ったドノヴァンは、戦争で破壊された惨状がいまだに残る東ベルリンをみる。
アメリカからみると、同じに見えるソ連と東ドイツ。
しかし、その両者間にも、当然国家としての駆け引きがある。
その狭間で、難航する交渉を、やり遂げて、スパイ交換は終了する。
アベルがブリッジを渡っていき、ドノヴァンはその後ろ姿をじっと見つめる。
口数すくないアベルが全身で表現するもの。
それが圧倒的。
アベルはもしかすると、処刑されたのかもしれないのだ。
見つめ続けるドノヴァンの心には「自分がしたことが何だったのか」、という煩悶が渦巻いていただろう。
この交換の功績により、のちに、ドノヴァンはケネディに抜擢されて活動したらしい。
アベルは妻子と再会したそうだ。
それらの後日談はともかく、
ただ、「1人の男のやさしさが 冷戦を止めた」とかっていうのは、やめてくれ。もう、全然違うから。
そういう「ロマンチックなフレーズ」が、どうしてそんなに好きなのか、ワケわからない。
国家戦略というのは、「1人の男のやさしさ」とか「冷たさ」でどうこうなるもんじゃないし、なってはいけないんだよ。
「1人の男の気持ち・嗜好」によって国や世界が翻弄された歴史が、ヒトラーだのアミンだのいくらでもあるのに、なんで、そんなロマンチックなセリフを真実っぽく思うのかね?
別にこの一件で、冷戦が解決したわけなんかじゃ、全然ないから。
ベルリンの壁が打ち壊されるまで、冷戦はもっともっとドロ沼にはまっていくから。
なんで、ああいう軽薄なコピーつけるのか、ほんとやめてくれ。
この映画を観た後で、「NHK新映像の世紀 第4集「世界は秘密と嘘で覆われた」を見て、同じ時代、もうほんと暗くなった。
1人の男の優しさなんかで、世界は救われたりはしない。
それでも人間は優しくなくちゃいけない、苦悩にまみれても信念を失っちゃいけない、ってだけだ。
ああ、でもとにかく、マーク・ライアンスのアベルがすごく良かった。
フォレスト・ガンプも素直に中年インテリに成長していたし、見てよかった。


