患者「漉庵(コシアン)せんせ、あちきは梅瘡でありんすか?」

医者「う~ん、股の付け根に便毒が出来てるからねぇ。随分無理して来たんじゃないのかい? 太夫なのにえらい災難だったね。出来るだけの事はするよ」

患者「ほんだすかえ。きさんじなもんだね。あちきは死ぬんでありんすか? なら、それはおよしなんし。太夫にまでなりんした上は、もうようござりんす」

医者「そうはいかないよ。水銀軟膏を塗るからね、それで中毒になっても解毒剤があるから。それに、何でも見受けの話があったって言うじゃないか」

患者「その話は流れたでありんす」

医者「そう、それは残念。だけど稀に見る器量良しなんだから、河岸見世なんぞに落ちぶれずに、客を取らず番頭新造や遣手としてここに残る事もできるんじゃないのかい?」

患者「せんせだけが頼りでござりんす。もっと早くせんせに会えていたなら、あちきのさだめも変わっていたでありんす」

医者「そうだね。私も惚れて入れあげてたかもね。江戸の人々の半分は梅瘡に罹る。将軍家でも死人が出る始末だ。全く厄介な病が蔓延り出したもんだよ」

患者「せんせ、死ぬる前に一度あちきを抱いてほしいでありんす」

医者「もも、もちろん。な、治って客を取らなくなったら。ねっ!」