娘「おとっつぁん、しっかりして! 死んじゃ嫌よ。ねぇ、おとっつぁんったらぁ……」

医者「……ついに事切れてしまったか。無念だ。力が及ばずにすまぬ。南蛮流の薬でも手に入れば助かったやもしれぬが、寿命だったと思うほかあるまい」

娘「おとっつぁん、目開けてよ、おとっつぁん! うううう……あ゛あ゛~ん!!」

医者「与作、後の始末を頼む。千世の相談にも乗ってやってくれ」

与作「へい。北島様はこれからどちらへ?」

医者「あゝ、もう一軒回る所があるのだ。役人と和尚に繋ぎを取れば、今日はもう帰ってよいぞ。与作、直ぐに日が暮れる。女房が待っているであろう」

与作「へいへい、ほぉ~でやんすか。それはありがてぇ事で」

医者「……さてと、(つくづく因果な商売だな医者は。自分の無力さを思い知らされるばかりだ……ううっ、く、く、苦しー。禁断症状か? 早く辿り着かねば。医者ともあろう者が、このような薬をやって己の命を縮めてどうする。何人もの命を救う事を考えれば、何のこれしき……はて、薬問屋はどの方角だったかな? ここは塀ばかりだ。塀、塀、ほぉ~がくを間違えたか。これは危うい、頭の中が変な唄で一杯だ。ほぉおおお~、ほぉおおお~)」