子供たちがピアノのレッスンを始める時期は、学年の始まりの8月から9月、新年の1月、そして、夏休みに入る6月が多い。先生によっては、一年を三から四学期に分けて、それぞれの学期初めに、スケジュールを決めたり、お月謝の設定を行う人もいるけれど、私は、一年を通してのスケジュールで、レッスン日時の変更などは随時行っている。でも、やはり「学期初め」の辺りと、そのほかの時期では、問い合わせや、レッスンを新しく始める生徒の数が段違いに違う。というか、「学期初め」以外の時期に、問い合わせや、新しい生徒が来るのは稀と言ってよい。
今年の6月は、立て続けに新しくレッスンンをお願いしたいという要請があり。5人ほどの新しい生徒が入った。お陰で、私のレッスンスケジュールは、ほぼ空きがないほど詰まってしまった。そんな、新しい生徒の一人で、小学校高学年の男の子がいる。
その子は、ここ数年、先生が自宅に来てくれる出張レッスンを受けていたそうだけど、その先生が、よくお休みをするので、レッスンをしたり、しなかったりとなってしまっているという。なので、きちんと定期的にレッスンを受けたいと、私の元に問い合わせがあった。こういう「転校生」が来るときは、実際のレッスンを始める前に、一度面談をすることにしていて、その子も面談にやってきた。
面談には、今使っている教材や今まで使った教材を持ってきてもらう。問い合わせの電話での話だと、とある有名な子供向けピアノ初心者の教材を使っているという。この教材は、レッスン、テクニック、パフォーマンス用、楽典など、パッケージになっていて、前の先生からは、そのパッケージごと購入するようにと言われたのだけど、結局一冊か二冊しか使っていないという。面談には、その全てを持ってきてもらいたかったのだけど、お母さんが持って来たのは、使ったことがあるというレッスンブックのみだった。この教材シリーズは、「最初の一歩」から始まり、レベル1、レベル2、と続くのだけど、持ってきてくれたレッスンブックはレベル1のみだった。
さて、どれくらい譜読みが出来て、基礎的な楽典(音符の読み方とか拍の取り方とか)が分かっているのか調べるために「一番最後に習った曲を弾いてみて」と子供に伝えると、「この辺が一番最後にやった曲」というのは分かるのだけど、弾き方は全く覚えていないという。何事かと、教材にあった、ト音記号の真ん中のドの音符を指して「音名を言ってみて?」と聞いても、分からないという。「じゃあ、真ん中のドの鍵盤をピアノで見つけて」というと、これも分からない。どの鍵盤がドで、どれがレで、ということすら分からない。レベル1のレッスンブックでは、四分音符、二分音符、全音符が混ざり、ヘ音記号の下のド(C3)からト音記号の上のド(C5)の間で、簡単なメロディーが弾けるくらいのレベルになっているのに。
その子が持って来た教材を、よくよく見てみると、全ての音符の横にC(ド)D(レ)E(ミ)とルビが振ってある。そして、家のピアノの鍵盤にも、C、D、Eなどとシールを張っているという。つまり、今までは、先生が書いてくれたルビを鵜呑みにして、鍵盤にあるシールのアルファベットと一致させていたらしい。そして、音符の読み方を、ちゃんと教わっていないから、四分音符は一拍で、二分音符は二拍で、という事も知らない。
私の所に来る子供たちは、幼稚園生だって、数か月で、簡単な童謡のメロディーは自力で楽譜を読んで弾けるようになる。この子のお母さんには「ピアノには楽譜というものがあって、楽譜の通りに音を弾くという事自体は理解しているようですが、楽譜の読み方を全く習っていないようです。最初からやり直すことになります」と伝えた。
面談ではレベル1の教材しか持ってこなかったので「最初の一歩」をすっ飛ばしてレベル1から始めていたのではと思ったのだけど、一回目のレッスンには「最初の一歩」のレベルの教材も、しっかり持ってきてくれたので、助かった。レッスンでは、真ん中のドを、ピアノ上で見つけるところから、音符と拍の関係という、始めてピアノ(音楽)のレッスンを受けますという生徒と同じところからの出発となった。
それにしても、この子の前の先生は、全く持って何を教えていたのだろう。全く楽譜の読み方も、ピアノの鍵盤見つけ方も出来ていないのに、「最初の一歩」レベルの教材を合格してレベル1に進んだのは、いったいどういう了見なのか、不思議でたまらない。