我々からしてみると、楽器の習い事をしていたら、家で練習するのが普通だけど、アメリカでは、子供にピアノを習わせている親御さんや、はたまた先生でも「家での練習ってなんこと?」という人が結構いるようで、私のピアノ教室に転校生としてやってくる子供たちには、家で練習なんてしたことがないという子が多い。
二年程前に、転校生としてやってきた中学生のA君もそんな子だった。私のレッスンでは、家での練習ありきで進めるのだけど、この二年の間に、殆ど練習してきたことはなかった。私は家で練習してこなくても、怒ったりすることはなく「あぁ、また練習していないな」と、直ることの無いミスがふんだんに入った演奏を忍耐強く聞いてきた。その上、家でたまにピアノを弾くこともあったそうだけど、楽譜も出さずに適当に指を動かしているだけで、練習というより、間違える癖をつけているようなもの。初心者級のメヌエットやブルグミュラーをやっていたのだけど、二年で、2~3曲しか進まなかった。私にしてみれば、いつまで経っても弾けずに、イライラしないのかと不思議だったけど、本人は全く気にしていない様子だった。
A君の親御さんは、ピアノのレッスンに通うなら、ちゃんと家で練習して、上達しないならレッスンに通っても無駄と考える、いたってまともな方だったのだけど、困っていたのが、何かにつけて、レッスンでの進捗状況をリポートしてくれだとか、レッスン時のA君のパフォーマンスに得点を付けてくれだとか言ってきた。私にとっては、親御さんからの問い合わせに対応するより、いつまでも上達しない、間違えだらけの演奏を聞いている方が、断然楽だった。
私が何を言っても馬耳東風なA君だけど、親御さんからの度重なる連絡に、いい加減呆れてきた私は、レッスンの時に、今までよりも、少々キツく、レッスンは練習をするところではなく、家での練習をするという前提でのレッスンであること、などを話した。その話の流れで、ついつい口が滑り、家では親御さんとの約束として、一日15分の練習時間を設けることのなっているそうだけど、レベル的にいったら、それは少なすぎる時間で、30分とか40分くらいは練習時間が適量で思われることを言ってしまうと「それなら、15分以上練習することもできます」と言う。しかし、A君は家での練習時間を肥大化して伝える(少々嘘つきな)性格なので、私は、心の中で「15分でもやっていない人が急に30分も練習できるわけないでしょう」と思っていた。
そして、私の予感は的中、一日30分の練習なんて、夢のまた夢、一日15分の練習でさえしなかったらしい。私がA君に話をした日から一週間後、次のレッスンの直前に、親御さんから、家での練習は、いまだに全くしないので、レッスンは辞めさせることにしましたと連絡があった。