一か月ほど前に、私のピアノ教室に8歳の男の子(T君)が転校してきた。T君はピアノを始めて2年程になるそうで、今までに何人も先生を変わっている。本人はそこまでピアノに興味はないのだけど、親御さん(特にピアノを弾かれるお母様)が音楽教育をさせたい、そしてその手始めはやはりピアノと思われているそうだ。そして、何人も先生が変わっているのは、先生との相性があまりよくなく、本当に嫌々にレッスンに行かせることになってしまい、これでは音楽教育どころか音楽やピアノが嫌いになってしまうと、お母様は焦ったようだ。

 

私は、転校生の最初のレッスンでは、その時にやっている教本や曲集を持ってきてもらうことにしている。T君が持ってきたのは、ハノン、簡単な連弾曲集(練習用として作曲されたエチュード集)と私は見たことなかったけれど教本らしきもの二冊。教本は一冊はバイエルの初級位から始まり、二冊目はブルグミュラーくらいから始まっていた。そして、色々なコピー譜が入っているバインダーも持ってきてくれた。バインダーの中にはソナチネ(ソナチネに取り組み始めるときの最初の難局かのうちの一つ)があったけれど、こちらはレッスンでやろうとしたけど全然できなかったとのことだった。

 

ソナチネに入るくらいなら、バイエルの終わりからブルグミュラー辺りなら、それなりに弾けるだろうと、二冊目の教本の最初の曲を弾いてもらうようにお願いすると、T君は全く弾けない。音符にあるように正しい音も弾けないし、拍も全く取れていない。楽譜の読み方すら知らないのではと思わせるほどだった。レッスンを始めて2年などといるレベルではなく、レッスンを始めて数か月のレベルだ。

 

こんなレベルの子供にソナチネなんて、無理の無理。ハノンだって無理だろう。そんな曲をやらせようとさせた先生は誰なんだろうと思った。

 

実はT君は私の前のチェロの先生(人間的にも音楽教育者としても失格だと私は思っている)からの紹介で来た生徒。

 

この先生は、ハノンは必ず全生徒(生徒の力量や、強み弱みに関わらず)にやらせないといけないと思っているようなことを言っていたので、T君に無茶をさせようとしたのは彼女なのかもしれない。