「父が救急車で運ばれた」

と兄から連絡があったのは、私が実家から移住先に戻った翌々日の朝ことだった。


義母の三回忌でモラ夫と一緒に東京に行き、私だけ実家に宿泊した夜。

「最近あまり食欲がなくてねぇ。お父さんのことは考えずにmarukoはしっかり食べなさい。」

そういう父に、おかゆとお味噌汁と少し甘く味付けした炒り卵を出した。

父は、お皿をじっと見て「美味しそうだねぇ」と言って、ほんの少し箸をつけただけだった。


食欲が無い父を心配しつつ、レトルトのお粥などをいくつか用意して、移住先に戻ったその翌々日に、父は倒れたのだ。

朝、父から兄に電話があり、何を言っているか聞き取れない状況だったため、兄はすぐに実家まで自転車を飛ばした。

父は、いつも過ごしている居間の座椅子から崩れ落ちるように倒れていた。


数ヵ月前から足が浮腫んでパンパンになっていた父。

浮腫んだ足で歩くと転倒が怖い

と言って、毎日続けていたカートを押しながらのウォーキングもやめてしまった。

2ヶ月前に総合病院でペースメーカーの検査をしたときに足の浮腫みを相談したが、「高齢になると浮腫みはでるものですよ」と何も処置はなかった。

義姉の伝で契約した訪問診療で医師に相談すると、血液検査や心電図に異常はないので、利尿薬を試してみましょうということになった。


父は、律儀に利尿薬を飲んだ。

利尿薬を飲んで、水分をたくさんとったら意味がないと思ったのか、トイレに立つ頻度が多くなることを嫌ったのか、自分の判断で水分をとるのも控えていたようだ。

その頃から食事も1日1食、日によっては食べずに過ごすこともあったらしい。

足の浮腫みは薬の効果もあって少しずつ引いたが、脱水症状を起こし、倒れて救急車で運ばれたのである。


訪問医療と総合病院は連携しており、訪問医療のほうから総合病院にこの機会に精密検査をしてほしいと依頼をしたらしい。


検査の結果は、残念な知らせだった。