真川奈津子と携帯の番号を交換したのは、奈々実の吹奏楽コンクール県大会の日だった。
奈々実たちの本番が終わって。
奈々実と話をして。
お互いのきもちを確かめあって。
夜に電話する約束をして、奈々実と別れたあと。
駅へ続く歩道へ出ようと、会館の駐車場側を壁伝いに歩いていたときだった。
前方に見えてきたのは、喫煙スペースで。
そこに、真川奈津子らしき人物と。
真川奈津子の向こうに、髪がくるんくるんの女の子が・・・・・・
なぜキス?!
いや、さっき、あたしも奈々実としてたんだけど・・・・・・
でも、いざ目の前で別カップルがそういうことをしているのを見ると、何だか・・・・・・
そうしてその場に立ち竦んでいると、真川奈津子が、あたしに気づいて振り返った。
いっしょにいた女の子にひとこと言うと、女の子はうなずいて、その場を去って。
真川奈津子が、あたしに、近づいてくる。
「ひとのラブシーン、覗き見するな」
あたしの前までくると、新しい煙草に火をつけながら、そう言う。
「別に・・・・・・見たくて見たわけじゃないし。そっちがそんな、公衆の面前で、堂々と」
そこまで抗議して、はたと、気づいた。
真川奈津子。
以前、あたしをつかまえて、あんた、何て言った?
――本気になったら、容赦なく攫うよ
あの時の、真川奈津子のことば。
今でも、鮮明に思い出せる。
奈々実を、好きだったんじゃ、ないの?
あたしが黙り込んだのを見て、真川奈津子も、察したようだった。
「奈々実のことは、今でも好きだよ。でも・・・・・・」
ふっと。
いつものような鋭さが、なくなって。
真川奈津子の瞳が、揺れたような気がした。
「結衣に感じるような、気が狂いそうになるような、そんなんじゃ、ない」
「・・・・・・ゆいって、さっきの?」
ゆっくりと煙草の煙を空に向かって吐き出しながら、真川奈津子は頷いた。
「私さ、嫉妬してたんだ。あんたたちに」
だから、ちょっと、いじわるしてやっただけ。
いたずらっ子みたいに笑いながらそう言った真川奈津子の儚げな横顔が。
あの日から、忘れられなかった。
そして、奈々実の吹奏楽コンクール支部大会まであと数日にせまった今日。
携帯に、着信があった。
真川奈津子からだ。
「・・・・・・もしもし」
『ういーっす』
「なに、昼間っから、酔っ払いみたいな」
『酔っ払ってなんかないし。っていうか、今夜、あけてくんない?』
「また、いたずらされるのはごめんなんだけど」
『いや、うまくまとまったみたいだから、もう邪魔はしない。もっと・・・・・・』
ワントーン低い声で。
もっと、真面目な話、と。
その真川奈津子の様子から、あたしは、奈々実に何かあったんだって。
思った。