ものすごく久しぶりに、幸福な夢を見た。

小学生以来のことだと思う。

あの頃は、怖い夢なんて、見たことがなかった。


いつからだろう。

怖ろしくて、悲しくて、寂しい夢ばかり見るようになったのは。


電気のスイッチに背が届かなくて。

陽が落ちても、真っ暗な部屋の電気を点けることができなかった。

暗く、だだっ広い部屋の片隅で。

誰かが帰ってくるのを、待ってた。

泣いて。

泣いて。

どれだけ泣いて、泣き疲れても。

誰も、あたしのことを抱きしめてくれる人なんて、あらわれなかった。


悲しすぎて。

寂しすぎて。

壊れそうになったとき。


アメリカへ引っ越す前まで、よく遊んでいたおんなの子のことを、思い出していたっけ。

名前とか、顔とかは、鮮明に覚えてない。

ぼんやりと、心のどこかにひっかかっていた。


ナナ・・・・・・っていう、名前だったような気がする。

ナナと一緒にいたとき。

あたしは、とってもとっても、楽しかった。

いつも、心の底から、笑っていたような気がする。


そして何より、幸福だった。


ナナの、手の温かさ。

ナナの、透き通るような、声。

ナナの、たくさんのキス。


あたしの、ほっぺに。

おでこに。手の甲に。

降ってきた。

でも、くちびるには、なくて。

どうして?って、きいたこと、あったっけ。

そしたらナナは、


『くちとくちでするちゅーは、ほんもの、なんだよ』


って。


『おっきくなったらね、ほんとにほんとに大好きなひとと、ちゅーするときは、くちとくちで、ちゅーするの。それは、ほんもの、なんだよ』


って。言った。


そのときの会話だけは、よく覚えてる。

あたしの、宝物だ。


そう。

あたしが久しぶりに見た幸福な夢には。

ナナが、出てきた。

何年ぶりかの再会だったのに。

ナナは、小さい頃のまんまで。

あたしがアメリカに引っ越した、小学2年生の頃のまんまで。

あたしに向かって、言った。


――『わたしが、好きなのは・・・・・・』


あまい既視感が、脳裏をよぎる。

どこかで、きいたことのある・・・・・・


――『小学2年生のときに、外国へ行っちゃった子』


・・・・・・

ちょっと待って?

既視感なんかじゃ、ない。

それって、


――『8年前の話だけど。今でも、好きなんだよ』


あたしの中の半信半疑が、確信に変わった瞬間。


そこには、大きくなったナナが、立っていた。

あたしと同じ高校の、制服を着ている。

スカートを、風に揺らして。

はにかみながら、照れくさそうに、あたしを見てる。



あたしも。

あたしもだよ。


きみが、好きで。

好きで好きで好きで、いとしくてたまんない。


涙が、溢れる。

いとしい、涙が。

幸福の、涙が。


すぐそばに。

いたんだね。


ずっとずっと。

会いたかったんだ。


ねえ、ナナ。


――奈々実。


好きだよ。



目が覚めてからも。

なかなか、起き上がれずにいた。

いつまでも、その余韻の中に、漂っていたかった。



怖ろしくて、悲しくて、寂しい夢を見て。

泣いて目が覚めることは、あったけど。


あったかくて、いとしくて、幸福すぎる夢を見ても。

泣きながら目を覚ますんだって。


そんな、わけわかんないあたしに、少し笑って。

やっとこさで、ベッドから、飛び起きた。



今日は、奈々実の、勝負の日だ。

吹奏楽コンクール。

県大会、当日。







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