謎の刺し傷の人 | 人生の酸いも甘いも噛みしめてしみじみ語る夕暮れのカフェ

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波風の多かった人生もようやく穏やかになりつつあります。そんな来し方を振り返りながら、暮れていく日々が少しでも豊かになるように、ささやかな日常を綴ります。カフェの片隅で、人生の大波小波、喜怒哀楽、人情の機微など語りませんか。時には毒も吐きましょう。

前の記事に書いたように30代のときだけじゃなく、20代にも一度入院したことがありました。

 

 

このことは一度記事にしたことがあるかもしれませんが、かなり前で記憶も薄れているので、再度書くことにします。

 

 

 

 

都内に就職して間もなくの頃でした。

 

 

やはり喉が腫れたんですね。

 

 

ごく軽い手術で、腫れたところを切開し、その後は特に治療の必要もなく、8日間ほどの入院だったと思う。

 

 

入院したのは、都心の大きな病院の6人部屋でした。

 

 

同室の人は、皆さん重大な病気ではなく盲腸などで、病室の雰囲気はいたってのどかなものでしたよ。

 

 

 

 

 

そんな中、私の隣のベッドに、胸を刺された人が運ばれてきて、一気に緊張感が高まりました。

 

 

20代後半か30歳前後の女性で、中学か高校の体育の先生だそう。

 

 

細身の体形でショートヘアーの、健康そうに日焼けしたボーイッシュな人でした。

 

 

もう少しで肺に達したかもしれないという傷の割には、キビキビと元気に話していましたよ。

 

 

そこへ婦長さんが入ってきました。

 

 

そして、私の隣りのベッドの人に

 

 

「どうしてできた傷か話してもらえますか?」

 

 

するとお隣りさんは、いかにも元気に明るく

 

 

「自分で刺しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

病室はし~~んと静まり返りましたが、婦長さんは少しも動じることなく

 

 

「ここで話しにくければ、場所を変えて話しましょうね」

 

 

と、お隣りさんを連れて出ていきました。

 

 

 

 

 

はぁ・・・・・

 

 

「自分で刺しました」にはびっくり仰天しましたが、あれはたぶん誰かをかばっているんじゃないか?そんな気がしましたよ。

 

 

それにしても、婦長さんの落ち着きぶりは半端ないわ。

 

 

都心の大病院ですから、どんな事情の人が、どんな怪我や病気で入院してくるか分からない。

 

 

何でもありの世界なんでしょうねえ。

 

 

しばらくしてからお隣りさんが戻ってきましたが、そこへ見舞客がやってきたんです。

 

 

これはお隣りさんとは正反対のタイプの女性だったので、とても印象に残っています。

 

 

長い髪の女性らしい雰囲気の見舞客とお隣りさんは、長いこと声を潜めて話していましたよ。

 

 

内容はまったく聞こえませんでしたが、ひどく深刻な様子でした。

 

 

 

 

きっとややこしい事情があるんでしょうねえ。

 

 

つい下世話なことを考えてしまいましたよ。

 

 

二つのケースを想像しました。

 

 

一つは、長い髪の見舞客がお隣りさんを刺した。

 

 

仲の良い二人に、何らかの感情のもつれがあったのかもしれない。

 

 

二つ目は、第三者がお隣りさんを刺した。

 

 

第三者が長い髪の女性を傷つけようとしたので、それをかばったお隣りさんが刺されてしまった。

 

 

はい、ゲスの勘繰りです。

 

 

 

 

 

そんなことをあれこれ想像しているうちに、お隣りさんはあっという間に退院していきました。

 

 

なので、謎は解けないままです。

 

 

その後どんな人生を歩んでいることでしょうか。

 

 

きっと幸せに暮らしているんじゃないかなぁ。

 

 

あの快活でキビキビした様子から、きっとそうだろうと想像しています。