つい先日、あるニュースを目にして、私の胸の奥にしまってあった様々な記憶が鮮やかに呼び起こされました。
現在79歳になられた声優の神谷明さんが、16日にご自身の公式ブログを更新され、4月18日に61歳という若さでこの世を去られた声優の山崎和佳奈さんを追悼されたという記事です。
アニメ『名探偵コナン』の中で、毛利小五郎と蘭として、長年誰よりも近くで父娘の絆を紡いできたお二人。
アニメの世界だけではない、現実の時間軸でも確かに存在していたその温かく深い繋がりを、神谷さんが静かにアメブロで語られているお姿に、何とも言えない切なさと、人間としての温もりを感じずにはいられませんでした。
思えば、子供の頃の記憶というものは不思議なもので、大人になって色々な経験を重ねた今でも、心のずっと深いところにそのままの鮮やかさで残り続けているんですよね。
1980年生まれの私にとって、当時のテレビから聞こえてくる声優さんたちの声は、まだ見ぬ大人の世界への案内役でした。
中でも、神谷明さんの存在はもう圧倒的で、数々の熱いヒーローたちに命を吹き込んでこられましたが、私にとっての原点であり頂点と言えるのが、『シティーハンター』の冴羽獠です。
彼は、私という人間に「ハードボイルド」という大人の男の美学を一番最初に見せてくれた、特別な存在でした。
普段の獠は、本当にどうしようもないくらいスケベで隙だらけの三枚目です。
でも、いざ依頼人が絶体絶命のピンチに陥った瞬間、あの声も顔つきも一変する。
低くて、冷徹で、凄みのある最高にクールな二枚目へとスイッチが入るあの究極のギャップに、当時まだほんの子どもだった私も言葉にできないほどの衝撃を受けました。
都会の影に生きるスイーパーでありながら、自分なりの確固たる掟を持っていて、底抜けの優しさで絶対に人を裏切らない。
そんな不言実行の生き様が、私が初めて触れた本物の「男の美学」でした。
そして、その痺れるような世界観を完璧なものに仕上げていたのが、北条司先生が描く妥協のない新宿の空気感であり、神谷さんの魂がこもった声であり、さらにはTM NETWORKが奏でる洗練されたサウンドでした。
エンディングテーマの『Get Wild』は、私の人生において絶対に外すことのできない永遠の名曲です。
アニメの本編がまだ終わっていない段階で、あの印象的なイントロのベース音が静かにフェードインしてくるあの見事な演出。
物語がそのまま都会の夜のハードボイルドな世界へと繋がっていくような感覚に、鳥肌が立ったのを覚えています。
華やかなネオンの光と、その裏側に潜む危険な匂いや大人の孤独。
そういったものがすべてシンセサイザーの音に凝縮されていて、ちょっと背伸びをしてでも浸りたくなる「オトナ社会への憧れ」を、私に強烈に植え付けてくれました。
子ども扱いせずに、あそこまで上質でカッコいい世界への扉を開いてくれた皆さんには、今でも心から感謝しています。
だからこそ、後になって2009年の秋に起きたあの名探偵コナンの降板劇は、私にとっても本当に寂しく、ショックな出来事でした。
13年間も初代・毛利小五郎として作品の大きな柱だった神谷さんが、突然身を引くことになった時のことです。
あの時、神谷さんご自身が苦渋の決断として胸の内を静かに綴られたのが、開設されていたアメブロでした。
大人の世界には、どうしても譲れない信念と、複雑に絡み合う事情があります。
神谷さんは「契約上の問題と、信・義・仁の問題」とだけ表現され、声優という仕事の未来や、後進たちの環境を守るために、ご自身の誇りを懸けて一つの大きな決断を下されたのだと思います。
決して誰かをあからさまに責め立てるような野暮なことはせず、ただご自身の「筋」を通された。
そして何より、残される作品や原作者の先生、そして動揺するファンを一番に気遣い、「どうか怒りを静めてください」と優しく呼びかけていました。
ご自身の悲しみを堪えてまで大切なものを守ろうとするその姿は、どこまでも思慮深い大人の振る舞いであり、まさに神谷さんが演じてきたヒーローたちのような、一本筋の通った生き様そのものでした。
私はこの一連の出来事を通じて、メディアのフィルターを通さずに、一人の人間としての生々しい感情や熱量、そして誠実な思いをリアルタイムで世界に届けられる「アメブロ」という場所の持つ力に、強く心を動かされました。
あの時の神谷さんの魂の言葉に背中を押されるように、「自分もいつか、こんな風に自由に、自分の思いや美学を言葉にして表現できる場所を持ちたい」という思いを静かに温め続け、2011年の10月9日、ついに私も「マンテカのブログ」を書き始めることになったんです。
誰に気を遣うこともなく、日常の中でふと感じたことや、自分の中にある大人の美学を等身大の言葉で綴ることができるあの場所は、今でも私にとって、自分らしくいられる最高のアトリエになっています。
そうやって少しずつ大人になって、日々の忙しいルーティンの中で生活していると、自分が自由であることの喜びや、朗らかに生きることの楽しさを、つい忘れてしまいそうになることもあります。
でも、夜の静かな道でマイカーを走らせながら、ふと『Get Wild』を流してみると、フロントガラス越しのいつもの夜景が、一瞬であの頃のロマンチックで少し危険な世界へと変わってくれるんです。
それは、あの偉大な大人たちが私の中に残してくれた美学が、今もちゃんと生きている証拠なんでしょうね。
毎日の忙しさの影に隠れてしまいがちな、自由に生きられるという喜び。
それを日常の色々な場面で丁寧に見つけながら、これからの人生をもっと豊かなものにしていきたい。
子どもの頃に冴羽獠から教わった「自分の掟に従って優しく生きる」という美学と、神谷さんがアメブロを通して見せてくれた「誠実で真っ直ぐな大人の振る舞い」。
その両方を胸に抱きながら、これからも一層謙虚に、そしてどこまでも明るく伸び伸びと、自分らしい自由な人生のハンドルを握って進んでいきたいと、いま静かにそう思っています。
