春の訪れを告げるように、ここ数日、しとしとと雨の降る日が続いていますね。


皆様いかがお過ごしでしょうか。


​冬の厳しい寒さを耐え抜いた草木を深く潤し、生命の息吹を宿す土を柔らかくほぐすこの時期の長雨は、「菜種梅雨(なたねづゆ)」と呼ばれています。


冷たく鋭い冬の雨とは異なり、どこかふっくらとした温もりを含んだような柔らかな雨音は、慌ただしく過ぎていく日々の喧騒をベールのように優しく包み込んでかき消してくれます。


​こんな静かな夜は、部屋の明かりを少しだけ落とし、時間をかけて深く焙煎された熱いブラックコーヒーを淹れるのが至福のひとときです。


マグカップから立ち上る芳醇な香りが部屋に満ちていくと、そっとお気に入りの音楽を流します。


​選ぶのはもちろん、ボサノヴァ。


そしてこの時期に必ずターンテーブルに乗せたくなるのが、アントニオ・カルロス・ジョビンの名曲「3月の雨(Águas de Março)」です。


​「棒切れ、石ころ、道の終わり…」

ジョアン・ジルベルトの囁くような歌声と、ポロポロと爪弾かれるアコースティックギター。


とりとめのない日常の断片が、淡々と、しかし流れるような心地よいリズムに乗せて紡がれるこの曲は、不思議と窓辺を叩く雨だれの音と見事にセッションしてくれます。


​本国ブラジルでは「夏の終わりの豪雨」を歌った曲だそうですが、日本の私たちにとっては、古い季節の塵をすっかり洗い流し、新しい春の生命を運んでくる「恵みの雨」の賛歌のように響きます。


​雨の日はどうしても外に出るのが億劫になりますが、見方を変えれば、心に静かな「余白」を作ってくれる贅沢な時間。


ジョビンの魔法のようなメロディと一杯の熱い珈琲があれば、この鬱陶しいはずの長雨も、とても愛おしいものに思えてくるから不思議です。


​やがて雨が上がり、鮮やかな陽光が降り注ぐ春本番はもうすぐそこ。


今夜はもう少しだけ、この風流な春の雨音とボサノヴァの調べに身を委ねたいと思います。


​皆様も、温かい飲み物をお供に、どうぞ穏やかな夜をお過ごしください。