
秋らしい空に鱗雲はよく似合う。
あの雲は雲の中でも高い方にあるらしい。
雲なんて水蒸気の固まりに過ぎないはずなのに、何でここまで人間心理に影響を与えるのか。
人間には先祖より代々受け継がれてきた空の神話があるような気がする。
大空という広大なキャンバスに、一刷毛によって描かれたのだと、きっと雲のことを錯覚するのだろう。
落ちそうで落ちてこない不思議な浮遊物でもある。
あの鱗雲は何枚あるのか、数えてみたことがかった。
しかし、そんな骨の折れる作業も、雲を眺めているうちに次第にあきらめてしまうのだ。
その柔らかな存在感に負けて、心が自然と穏やかになるのだ。
それこそ雲の、雲たる秘密なのかもしれない。