ミラノ・コルティナ五輪にて、フィギュアスケート・ペアで見事に金メダルを獲得された「りくりゅう」こと三浦璃来選手と木原龍一選手。帰国会見での晴れやかな笑顔が印象的でしたが、なかでも木原選手が「キャンピングカーで全米を横断したい」と次なる夢を語ったことには、私自身も深い感慨を覚えました。
かつて私も、アメリカの「マザーロード」と称されるルート66に強い憧れを抱き、書籍やDVDを通じてその臨場感に浸った一人だからです。地平線まで一直線に続く道、点在する小さな町々……。一筆書きのようにそれらを繋ぎながら走る旅路には、効率を優先する現代が忘れてしまった「古き良きアメリカの魂」が今も息づいています。
シカゴからサンタモニカまで、全長約3,940kmに及ぶこの道は、1926年の開通からちょうど今年で100周年を迎えました。スタインベックが『怒りの葡萄』で「マザーロード」と呼んだこの道は、単なる移動手段ではなく、アメリカの歴史と希望を運んできた象徴です。ルート66の最大の魅力は、1950〜60年代の「車社会の黄金時代」がそのままタイムカプセルのように保存されている点にあります。夜空に鮮やかに輝くモーテルのネオンサイン、映画のワンシーンに出てくるようなレトロなガソリンスタンド、大きなハンバーガーやシェイクが似合う昔ながらのダイナー。州間高速道路(インターステート・ハイウェイ)の開通によって一度は地図から消えかけた道ですが、そこには今も、不便ささえも楽しむような、ゆったりとした時間が流れています。
木原選手が語った「キャンピングカーでの横断」こそ、この道の魅力を最大限に味わう方法でしょう。砂漠、平原、深い峡谷、そして最後に辿り着く太平洋の潮風。刻々と変わる車窓の風景を眺めながら、ラジオから流れるカントリーやロックに耳を傾ける。それはまさに「自由」と「冒険」を地で行く体験です。道中には、思わず笑みがこぼれるような「ロードサイドアトラクション」も溢れています。
テキサスの平原に突如現れる、地面に突き刺さった10台のキャデラック(キャデラック・ランチ)や、アリゾナ州ウィンスローにある、イーグルスの名曲『テイク・イット・イージー』の世界観を再現したコーナー。こうした「なんじゃこりゃ」と思わせる遊び心こそ、アメリカという国の懐の深さ、そして物語性を感じさせてくれるスパイスなのです。
過酷な練習と徹底した食事制限を乗り越え、世界の頂点に立った三浦選手と木原選手。カナダを拠点に、生活のすべてを氷上に捧げてきたお二人にとって、広大なアメリカ大陸を気ままに往く旅は、何よりの解放となるはずです。木原選手が「好きなものを食べたい」と語れば、三浦選手は「お寿司などの日本食を」と笑う。そんなお二人のあうんの呼吸があれば、キャンピングカーでの長旅も、きっと素敵なプログラムのように輝くことでしょう。
この「米国横断」という響きに、私は大好きな映画『グッド・ウィル・ハンティング』のラストシーンを重ねずにはいられません。天才的な才能を持ちながら孤独だった青年ウィルが、親友から贈られたオンボロの車を走らせ、愛する彼女に会うためにカリフォルニアへと旅立つあの場面。「自分の一番大切なもの」を見つけ、輝かしい未来へ向かってハイウェイをひた走る彼の後ろ姿は、まさに今の「りくりゅう」の姿そのものではないでしょうか。
金メダルという至高の栄誉を手にし、重圧から解き放たれたお二人が、大きなキャンピングカーのハンドルを握る。それはウィルが古い車で見つけた「自由」と同じように、お二人にとっても新しい人生の第一歩になるはずです。2026年のアニバーサリーイヤー。全米各地で祝福のイベントが開催されるなか、歴史的な瞬間に立ち会いながら「マザーロード」を走る……。それは、金メダリストにふさわしい、実に壮大でロマン溢れる「ご褒美」です。
かつて雑誌や画面越しにルート66の鼓動を感じていた私も、お二人の夢に自分自身の憧れを重ね合わせずにはいられません。果てしなく続く道の先に、新しい物語が待っている。りくりゅうの旅は、氷の上から、今度は広大な大地へと続いていきます。
