日本武術神妙記/中里介山 22039
★★★★★
「大菩薩峠」で有名な中里介山による、日本の武術名人の逸話集。
中里介山は宮本武蔵のことをあまり評価していないことを知っていたので
無意識に避けていたが、改めて吉川英治宮本武蔵全巻を聴いて
宮本武蔵への尊敬の念が確固たるものであることを確認できたので、
まぁ反論も読んでおこうかと。
さてまたこれ等神妙の名人上手の実力に就いての品評は
古来よく下馬評にのぼり、
炉辺話題に供せらるるものであるが、
それはなかなか難しいもので時代を異にし
流派を異にする超人間の人々の技量手腕に
上下段階を附して見るということは殆んど不可能のことだが、
併し離れて大観すれば自ら相当の標準が無いではない、
著者はいつか閑があったらば戯れに
その番附を拵えて見たいと思っているが、
まず初期に於て一例を云えば、
大家 上泉伊勢守 柳生但馬守
名人 塚原卜伝
上手 小野次郎右衛門 宮本武蔵
と謂ったような順位は動かないものと思われる。
この番付云々への意見反論を言い出したら
実にキリが無くなりそうなのでやめておく。
本書は保元平治から明治初期までの名人達人の逸話を集めたもので
他書で何度も目にした逸話も多く武道武術の本のネタ本なのか?
と思うこともしばしであったが、
特に残念であったのは本書が1933年(昭和8年)に書かれているものの、
明治~大正~昭和にかけての名人達人たちが全く登場していないところ。
鹿島神流國井善弥先生(1894年~1966年)は
同時代なので仕方ないが、
大東流合氣柔術武田総角先生(1859年~1943年)は
時代的にもエピソードの面白さから言っても登場していてもおかしくない。
合氣道創始者植芝盛平先生(1883年~1969年)には
中里介山は1929年に弟子入りまでしているのに。。
番付や逸話の取捨選択基準には疑問を持ちつつも、
先人たちの精進を素直に学びたい。
毎日の日課として、刀を抜くこと千遍であったが
七十五にして死する時までこれを廃さなかったという事である。
甲野善紀先生が憧れる松林左馬助蝙也斎の逸話。
一日千回の抜刀。やってみよう。