致知 2011年7月号 特集「試練を越える」 11180 | 年間365冊×今年20年目 合氣道場主 兼 投資会社・コンサル会社 オーナー社長 兼 グロービス経営大学院准教授による読書日記

致知 2011年7月号 特集「試練を越える」 11180

『致知』2011年7月号


致知 2011年7月号 特集「試練を越える」

★★★★☆



今回も震災関係の記事が多く、

心打つやら励まされるやら。


でも、今回の震災もショッキングな出来事であったが、

私の原体験はやはり阪神大震災。


鈴木秀子さんの記事に涙する。



 人生を照らす言葉


 地鳴りの中で静かに響いてきた歌声


 一九九五年の阪神・淡路大震災の時のことです。
 地震発生時、Kさんはまだ布団の中にいました。

 突然の激震。あっと思う間もなく家は大きく崩れ、

 同じ部屋に寝ていた奥さんとの間に
 ドーンと何かが崩れ落ちてきて
 夫婦は身動きが取れなくなりました。

 

 Kさんは大きな声で隣にいる奥さんに声を掛けました。

 しかし返事はありません。

 続いて別の部屋で寝ていた
 幼い二人の子供たちの名前を呼びましたが、
 やはり何の反応もありませんでした。

 

 Kさんは必死になって家族一人ひとりの名前を呼び続けました。
 声を枯らして叫び続けましたが、
 やがて力尽きていくのを感じました。

 目の前で起きた出来事の重大さが
 分かってくるにつれて心が茫然となり、
 声を出そうという氣力すら失せていったのです。


 やがて氣を取り直したKさんは、
 再び氣力を奮い起こして、何度も何度も
 傍にいるはずの奥さんの名前を呼びました。

 それでも、反応はありません。


 「やはり駄目だったか」


 Kさんは心の中で呟きました。


 どのくらい時間がたったのでしょう。

 諦めかけたKさんの耳に入ってきたものがありました。

 余震の地鳴りの音にかき消されて
 はっきりは聞き取れないものの、
 それは明らかに奥さんの声でした。

 かすかな声で何かを歌っているようです。

 耳を澄まして聞いているうちに、
 それが「故郷」であることが分かってきました。


 兎追いしかの山
 小鮒釣りしかの川
 夢は今もめぐりて
 忘れがたき故郷


 如何にいます父母
 恙なしや友がき
 雨に風につけても
 思いいずる故郷


 こころざしをはたして
 いつの日にか帰らん
 山はあおき故郷
 水は清き故郷


 奥さんは声楽科を出ていて、
 時折舞台でも歌声を披露していたのです。
 おそらく朦朧とした意識の中で、
 この歌を口ずさんでいたのでしょう。

 

 最初は喘ぐかのように細々としていた歌声は、
 やがて生きようという
 ひたむきな歌声に変わっていきました。

 地響きの音が消えた静寂の中、
 瓦礫の中に差し込んできた
 一条の朝日に照らされて聞こえてくる歌声は、
 まるで大宇宙を満たしているかのようだったといいます。


 こころざしとは自分の生を輝かせること


 歌声は何度も繰り返されました。

 そして「如何にいます父母」という言葉に差し掛かった時、

 Kさんは不思議な感覚に包まれました。

 亡くなったそれぞれの両親が

 突然目の前に現れたかのように感じたのです。

 それはあまりにはっきりした感覚で、

 まるで全身を火の矢で射抜かれたかのような衝撃でした。


 「ああ、両親が助けに来てくれたんだ。
 瓦礫から守ってくれただけでなく、
 いつも見守ってくれていて、
 この世を生きていく上での重石やしがらみを
 取り去ってくれているんだ」


 そう思うと、涙がポロポロと流れました。


 奥さんの歌はやがて三番の歌詞に移っていきます。


 「こころざしをはたして、いつの日にか帰らん」。


 Kさんは、自分が人生の旅路を終えて
 どこに帰るのかと考えた時、
 それは父母のいるところだと理屈抜きに理解しました。

 

 そして「こころざし」というのは立身出世のことではない。
 この世にいて自分の生を輝かせることだ、
 愛を持って生きることだとはっきりと気づくのです。


 Kさんは瓦礫の中にあって悟りにも似た確信を得ました。
 人間は誰しも大宇宙に生かされた存在であり、
 自分も奥さんも亡くなった両親も、
 ともに深いところで命という絆で結ばれていること、
 生きているうちに身につけた地位や財産は儚く消え去り、
 この世の生を全うした後は魂の故郷に帰っていくということ……。


 Kさんは奥さんの歌声に引き込まれるかのように
 自分も一緒に歌い始めました。
 最初は小声で歌っていたものの、
 奥さんがKさんの歌声に氣づいて
 一緒に調子を合わせ始めたことに氣づくと、
 力いっぱいに歌うようになりました。

 二人の合唱は瓦礫の壁を突き破るかのように響き、
 間もなく二人は救助されるのです。


 残念なことに二人の子供たちは命を失っていました。
 しかしKさんは私にはっきりとこうおっしゃったのです。


 「たしかに悲しいことですが、子供たちは
  自分の使命を終えて魂の故郷に帰っていったのだと思います。
  子供たちは、人間というものは永遠の世界に向かって
  旅を続けている存在であることを
  命に替えて私たちに教えてくれたのです」と。


 Kさんは「故郷」の歌で子供たちを天国に送り、
 亡くなった子供たちの分まで命を輝かせて生きることを
 奥さんと誓いながら明るく生きておられます。



Kさんのような極限状態で、

自分は何を感じ何を思うのだろうか。


 Kさんは「故郷」の歌で子供たちを天国に送り、
 亡くなった子供たちの分まで命を輝かせて生きることを
 奥さんと誓いながら明るく生きておられます。


ここで涙溢れ、止まらない。

自分はそこまで悟れそうにない、悟りたくもないと、

正直思った。