元裁判所職員の走り書き -4ページ目

裁判所の変化


最高裁と言えば、三審制を採用する日本における司法判断の最後の砦ではありますが、一般の人からするとやや遠い存在(そもそも裁判所自体が遠い存在の人が多いのでしょうが)ですよね。
少し前から、最高裁は、判決等の要旨を傍聴席に配布するなど、今までの裁判所のスタンスを変更するようなことに取り組んでいますね。

最高裁に限らず、裁判所全体的な取組として、当事者の納得性という点には力を入れているところなので、記事のような流れもその一環とも言えるものかと思います。

これまで、裁判官は当事者、民事であれば原告と被告から少し離れた場所に立っていたように思います。
この点、法廷の外で、当事者と裁判官との橋渡し的な役割を、裁判所書記官が果たしていたのだと思います。

裁判官は専門性の高い職業で、判決の中で書いたことがその説明の全てであって、それ以上のことはせず、当事者に対する説明は書記官に任せるという感じですかね
これが少しずつ変化してきているのだと思います。
当事者に納得のいく説明ができなくなってきていると。
その背景には、昔は「お上の言うことなら」と納得してくれていた当事者が、インターネットなどを通じて、多様な情報に接することができるようになっていて、知識が向上した当事者が書記官の言うことじゃ納得できず、裁判官が説明を尽くす必要が出てきたのだと。
もちろん、書記官の能力低下という問題も一因になっているのだとは思います。

今後、AIが普及していく時代になれば、単に法律の適用というだけでは、裁判官の仕事も足りなくなってくるのかと。
当事者の言いたいことは書面だけじゃ分からないことも多く、話を丁寧に聞いて絡まった糸を解いていくことと似ているのかもしれません。
そういう機微の分かる裁判官や書記官といった人材が裁判所にはもっと必要なのかも知れませんね。

最高裁人事(平成31年2月15日付け)

定年退官(前橋地家裁高崎支部判事)永井秀明
前橋地家裁高崎支部判事(東京高裁判事)地引広

最高裁人事(平成31年2月12日付け)


2月11日付け定年退官(東京高裁部総括)畠山稔
東京高裁部総括(高松地裁所長)村上正敏
高松地裁所長(東京地家裁立川支部長)岸日出夫
東京地家裁立川支部長(東京地裁部総括)相澤眞木
東京地裁判事(東京高裁判事)大嶋洋志

東京地裁判事(最高裁人事局付)渡邉隆浩
最高裁人事局付(札幌地家裁判事補)根本宣之

養育費等の簡易算定方式の見直し?


家庭裁判所で養育費や婚姻費用が争いになると、いわゆる「簡易算定方式」による計算が行われるのが一般的になってきた。
しかし、今回の審判はその方式の算定額より10万円ほど多額の支払を命じており、報道の一部で話題となっている。
この簡易算定方式については、昨年の夏くらいにも新聞等で話題となったが、現在、司法研修所で見直しも含めた検討が行われている。
その結果が公表されるのは今年の春以降になると思われるが、今回はその結果を待たずに、別の算定方法によって行ったと思われる。

そもそも、簡易算定方式とは、平成15年に東京・大阪養育費等研究会が検討した結果を判例タイムズに公表したことで広まった方式である。
東京・大阪養育費等研究会は、東京と大阪の高裁、地裁、家裁の裁判官等が研究員となって研究を行っていたものであって、簡易算定方式を発表したときには、当時の東京高裁判事の三代川俊一郎裁判官(既に依願退官)、大阪高裁判事の橋詰均裁判官(その後地裁部総括を歴任して、現在大阪高裁判事)らが中心となっていた。

それまでは、養育費や婚姻費用の算出には、個別の事情を加味して裁判官が証拠から算出するのが一般的で、当然ながら算出に時間がかかっていた。
さらに、当時は、人事訴訟が地裁から家裁に移行された時期でもあるなど、家事事件全般が繁忙な状況にあったことも背景にあって、養育費等の算定の簡易化・迅速化は重要な問題とされていた。

しかし、それから15年以上が経過し、簡易算定方式はその役割を終えたと言える時期がきたということであろう。
当初から、研究会が、家庭裁判所で採用された考え方を踏襲したものであり、今後の変化による見直しを想定していたものであり、司法研修所の検討はもっと早くても良かったのかもしれない。

現行の方式では、母子家庭の貧困が生まれる一因となっているとの指摘もあり、司法研修所での検討が、先進国の中で貧困度が高くなっている日本の社会を変える要素となりうるものであることから、しっかりとした検討がされ、実務において定着することを期待したい。

大阪高裁長官の就任挨拶


安浪長官は奈良県の出身だったのですね。
大阪は東京に対する対抗心も強いところで、外から来た裁判官に対しては、弁護士会の対応も手厳しい部分があると聞いていますので、関西の気質をよく知る長官が配置されることで、大阪管内の裁判所が活性化されるといいですね。
最近は、高裁長官が1年程度でコロコロと変わっていたのですが、最高裁判事の定年が、今年の夏の山崎さんを最後に、しばらく間が開く予定になっているので、安浪さんの長官在任は少し長いのではないかと思っています。

ちなみに、裁判官出身の最高裁判事の定年予定ですが
山崎 敏充  H31.8.30
小池  裕  H33.7.2
大谷 直人  H34.6.22
菅野 博之  H34.7.2
戸倉 三郎  H36.8.10
深山 卓也  H36.9.1
となっています。

安浪長官の定年がH34.4.18なので、山崎さんか小池さんの退官のときに最高裁判事にならないと高裁長官止まりとなってしまいます。

現在の高裁長官の中では、山崎さんのあとは、名古屋高裁長官の綿引さんか、東京高裁長官の林さんが有力だと思っています。
これまでの傾向では、東京、大阪高裁長官の出身者が多く、名古屋高裁長官からの最高裁判事は少ないので、林長官が有利とみられる部分もありますが、裁判官出身で女性の最高裁判事は初めてになるので、その点では綿引長官有利とみられます。
しかも、裁判官出身ではないとはいえ、女性の最高裁判事が、今年度中に、3人から1人に減ってしまうので、女性登用の観点からは綿引長官有利かなって思っています。
仮に綿引さんが山崎さんのあとに最高裁判事になったとすると、次の小池さんのときには、東京・林長官v.s.大阪・安浪長官の一騎打ちになると思われ、期が1期上で、高裁長官に先になっている林長官がかなり有利なので、安浪最高裁判事の可能性はなくなるのではないでしょうか。
(もちろん、最高裁判事に病気や死亡による退官があれば話は変わりますが)
ただし、林長官は、大谷長官と菅野判事のあとでも間に合う若さなので、政治的な配慮がされ、安浪さんが先に最高裁判事になったあとに、大谷長官の後に、林さんがダイレクトで最高裁長官になることもありえますが、そうなると戸倉v.s.林(v.s.深山)対決の問題も出てきますね。

最高裁判事に誰がなるかなんて、一般的には関心も薄いことかもしれませんが、こうやってみると少し面白さが出てきませんか?