ミト(クラムボン)が語る満島ひかり「ELECTRIC PROPHET」〜TM NETWORK TRIBUTE



『TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-』で、初期TMのテーマ曲とも言える「ELECTRIC PROPHET(電気じかけの予言者)」は、俳優・満島ひかりが歌唱。はかなくも美しい「エレプロ」の新しい形を、プロデューサーとして満島と示してくれたのは、FANKSとしても知られるクラムボンのミトだ。その世界をどのように紡いだのかを、ミトに聞いた。


アンドロイドの満島さんがポツンとその舞台で歌う

−TM NETWORKのトリビュートに、満島ひかりさんが歌う「エレプロ」が収録されると聞いて、どなたがプロデュースするのかと思ったらミトさんだと知りました。ああ、これは間違いのない作品ができるだろう期待していたのですが、大傑作ですね。

ミト ありがとうございます。他の参加されている方々も、コラボレイティブなものがたくさんあるんですけど、やっぱりTMへの思いが強い人たちが一生懸命作っているから、すごい、みんな濃密なものばかりで。私も思いがすごい詰まるものになるだろうかなと思いながら、願わくば風通しの良さというか…熱量を詰め込むよりは、音でその熱意を伝えていく方向にするのは最初から考えました。


−どういう経緯でミトさんにお話が来たのでしょうか?

ミト 実は、一昨年くらいから“トリビュートをやると思うから、そのときにはいろいろお願いしたい”ということはいろいろな方から言われてたんですよ。それで昨年末に、人選が決まりそうだという話をいただいて。ただ、私は歌うわけではないから、たまたま今回の企画のスタッフの方が満島さんと仕事をしていた関係でつないでいただいて。  


−「エレプロ」をやることになったのはどうしてなのですか?

ミト 企画のディレクターの方から“ミトさんには「エレプロ」をやっていただきたい”とリクエストが来たんです。多分誰も触われないだろうという理由だと思うんですけど。FANKSにとっての重要曲であるということ、誰よりも尊さを知っていると思われたんでしょう。TMの特集番組でMCをしたりしている、私の火力の強いTM論を見て、この人だったら「エレプロ」をエゴでリメイクしたりすることはないだろうなと思っていただいたんだと思います。ただ正直、強烈なプレッシャーでしたけど。



「ELECTRIC PROPHET」(作詞 小室哲哉/作曲 小室哲哉 木根尚登)の原曲はミニアルバム『TWINKLE NIGHT』(1985年)に収録。ライブの定番曲をスタジオレコーディングしたもの。サウンドメイクは初期TMの核となる小泉洋。

 

−自分で参加曲を選んでいいと言われても、「エレプロ」は選びにくいですよね。

ミト そうですね。FANKSであるが故に「エレプロ」に立候補するのは、ちょっとタブーに近いと思うぐらいだったんですけど。そうやって依頼された流れで、きちんとした歌い手を選出しますということで満島さんの名前が挙がったんです。それで、満島さんにお話を聞いたら、結構昔から普通にTMを聴いていると。

 

−ええっ!?

ミト ええっ!?と思いますよね。

 

−世代的には全然合っていませんよね。

ミト でも彼女がFolderで活躍していた時代には、もうTKプロデュース全盛だったじゃないですか。その頃から小室さんの音楽がいつでも耳に入ってたらしくて、それに親近感を持っていたそうなんです。それで、年頭に初めて満島さんとミーティングをしたんですが、話を聞いたら彼女は音楽趣味がかなり独特でした。SOIL & "PIMP" SESSIONSや、大沢伸一さんとのつながりは知っていたんですけども。意外にも小川美潮さんからボーカルレッスンを受けていたり。で、日本の音楽ではどんなものがお好きなんですか?と聞いたらヤプーズだと。

 

−ちょっと想像していなかったので、頭が混乱しています。

ミト ですよね。そういういろいろな話をしているうちに、何も見えていなかった「エレプロ」だったんですけど、そういう満島さんの音楽的背景とか、さらにご本人が俳優なので、情景とかキャラクター…アイディアが音楽的な要素じゃなくて、“からくり人形”とか“白と黒の世界”とか“義足のフェンシング”とか、そういうイメージがたくさん出てきたんです。“とにかくメカの音がする”とも言われました。その話をまとめてみると、あれ?これは舞台音楽かな?と。

 

−なるほど! 今回の「エレプロ」のシアトリカルな仕上がりはそこにつながるわけですね。

ミト 私が満島さんと一緒にやると考えると、いわゆる劇伴的でコンテンポラリーな舞台音楽に、アンドロイドの満島さんがポツンと歌う。そういうミニマルな編成と素材で物語を作るようにすればできるかもと思ったんです。

満島さんの声をXLN AUDIO Lifeでリズムに

−今回の「エレプロ」は、そのシアトリカルな情景を象徴するような機械音でリズムが刻まれていますね。

ミト いわゆるニカ(エレクトロニカ)的な素材なんですけれども、満島さんとのミーティングをボイスメモに録音してあって、それをXLN AUDIO Lifeでスマホからコンピューターに転送して、満島さんの声をまず機械的に分解して作ったのが“ニカ”のグルーブで。満島さんの声がぶつ切れになってリズムになっているという時点で、まず満島さんをアンドロイド化して。そのリズムからピアノメインで展開していこうかなと考えました。Lifeは結構テンポ・チェンジにも追従してくれるので、まずピアノでクリックを入れずに大体こんな感じのテンポというガイドを作って、Avid Pro Toolsのテンポマーカーをそれに合わせて一個ずつ入れて。


−だからテンポが揺れているんですね。どうしてフリーテンポでやろうと思われたんですか?

ミト 2つ理由があって、まず一つは舞台音楽とかコンテンポラリーダンスを模範としているので、揺れや人の動きに合わせていかないとなと思ったんですよね。特に「エレプロ」は長尺なので、普通にグリッドしている音楽を8分強聴くのがストレスだと感じられるのは嫌だなと思ったんです。指揮者がテンポを動かすかのように、気持ちとかストーリーとか歌詞に合わせて、部分部分の揺らぎを作っていくことによって、長尺のものをドラマチックに全部乗せるようにと。


ミトがテンポマップから起こした小節番号とテンポのリスト。リタルダンドを除いて64〜73BPMを推移している

ミトがテンポマップから起こした小節番号とテンポのリスト。リタルダンドを除いて64〜73BPMを推移している


−もう1つの理由は?

ミト これは「エレプロ」とは関係ないんですけど、クラムボン「バイタルサイン」のリミックスを昔小室さんがやってくださったんですけど、アナログテープで録っていた曲だったので、そこからテンポマップ作って4つ打ちを入れてもらったという、そのときの申し訳なさがずっと残っていて。小室さんがそんなに大変な思いをしたんだから、同じように自分もちょっと枷をかけないといけないだろうというダブルミーニングがありました。


−その中心となるピアノ自体は割とベーシックな演奏ですよね。

ミト そうですね。コードが変わっていそうでいて、実は変わってはいないんですが、積み方をだいぶ変えて舞台音楽的なものにしようと。そして、“ニカ”以外のリズムは本当の生が必要だなと思って、よしうらけんじさんにパーカッションをお願いして。弦アレンジは私が書いたんですけど、徳澤青弦に入ってもらって。青弦もTM世代で小室さん好きなので、“じゃあ入れてあげよう”と思って(笑)。

 

−パーカッションはすべて生なんですか?

ミト “ニカ”はLifeで打ち込んだっていうか、AIで作ってもらっていて、キックは僕が入れました。小節の頭は打ち込みです。ただ裏拍のキックは、テンポに変動があるので、普通に4拍目の裏とかのグリッドに置いてもおかしくなるんです。例えば84BPMから85BPMに上がる手前だったら、少し前めにしてあげないといけない。なのでテンポマップをみながら、全部動かしました。パーカッションのよしうらさんもテンポマップを見ながらやっていただきました。

 

−冒頭に、オルゴールっぽいキーンとした音が入っていますが、これは?

ミト XPERIMENTA Audio EtherealというKONTAKTライブラリーで、不思議な地中海っぽさみたいな音色がいっぱい入ってるんです。ただクロマチックで入っているわけではないので、キーを調整したものを作って5つくらい立ち上げて。サックスっぽいファーンという音も全部これで作りました。


オルゴールのような金属音やサックス的な音に使用したというXPERIMENTA Audio Ethereal。Native Instruments KONTAKT上で立ち上がるフリー音源

オルゴールのような金属音やサックス的な音に使用したというXPERIMENTA Audio Ethereal。Native Instruments KONTAKT上で立ち上がるフリー音源。


−ピアノはどうされたんですか?

ミト これもXPERIMENTA AudioのDue。最近めちゃくちゃ気に入っています。部屋の鳴りみたいな成分を強調していて、高い音になっていくと不思議なリバーブが乗っていってくれる。このメーカーはすごく面白いですよ。現代音楽的なプリペアドピアノや、映画音楽とかに使えそうなチェレスタだったりとか、そういう小物系な音源をよく作っているメーカーです。でもやっぱりTMだからシンセは入れないといけないと思っていたんですけど、ただのシンセを入れるっていう感じじゃないなと。結果、純様(佐藤純之介)のところへ行って、MOOG IIIcでヨハン・ヨハンソンやハンス・ジマーが昨今の劇伴で使うような抽象的なシンセを入れました。

 

−SEっぽいパッド音がMOOG IIIcですか?

ミト そうです。ちょっとノイズっぽくブワーっていってる。ほかのトリビュート参加者の皆さんとはある意味で真逆の発想で、全然違うベクトルでシンセを入れるのもありだなと。その結果が、こういうアレンジになっています。純様には“ミトさん、ちゃんと音作ってますよね?「エレプロ」なんですよね?”と言われるくらいずっとピーとかガーとか、そんな音ばかり出していて(笑)




佐藤純之介邸でMOOG IIIcに向かうミト。

満島さんからボーカル処理のOKが出るのに時間がかかった

−生楽器の録音が多かったということですが、どちらで録音されたのですか?

ミト 歌も弦もパーカッションも、Studio Sound DALIのAstで録りました。エンジニアは橋本まさしさんなんですよ。クラムボンの1st『JP』(1999年)や2nd『まちわび まちさび』(2000年)以来だったので、本当に四半世紀ぶりで、それも尊かったですね。満島さんが橋本さんとご一緒することが多かったので、橋本さんも満島さんのマイクを決めるのはすごく早かったです。

 

−ミックスは?

ミト ミックスも橋本さんが作ったものを送っていただいて。後奏の逆回転のような音は橋本さんがミックスで処理してくださいました。ただ、唯一、満島さんからボーカル処理のOKが出るのに結構時間がかかったんです。満島さんもすごく考えるところがあったらしくて、いい感じで録り終わった後に、僕と橋本さんの中では当たり前のようにトリートメントしっかりして、いい形で、いい意味でパッケージする感じで作ったんですけど、満島さんには全くそこはグッとこなかったらしく、そこからすごくやり取りをして。

 

満島ひかり


−満島さんが気になっていたポイントはどこだったのでしょうか?

ミト 満島さんのテイク全体に、リップノイズなどを除去するプラグインをに一回パッとかけていたんです。その処理で、本来の声に残るザラッとした生々しい部分まで、消えてしまっていたと。そうした細かいノイズは結構事故になりそうだから、できるだけ処理をしておきたいじゃないですか。最終的にはトリートメントする前に戻して、本当に事故になりそうなところだけ、部分的にディエッシングしたりして。ピッチもほぼ動かさずに、間の取り方とかなどで整合できているテイクを組み合わせてまとめました。

 

−ああ、そうなんですね。だから、満島さんの声も、生々しさがある。

ミト 歌い出しからザラッていう質感がある。橋本さんとも言っていたんですけど、確かに今回、舞台音楽的なコンテンポラリーミュージックを目指すにあたっては、この空気感は消してはダメだよなとな。そこにたどり着くまで結構時間がかかったんですよね。空気のざらついた感じは、後々コンプにかかると歌を遠ざけてしまう可能性もあるという発想だったんですけど、満島さんは真逆の方向で、むしろそこを立ち上げることによってざらつきと世界観を維持するんだよと。橋本さんと二人で、もう私たちは世間に染まりすぎてたんじゃないかと言いました。

 

−でも、それは大事な話ですよね。クリーンな商品としての音楽を作ることと、そこで失われてしまうものと、優劣ではなく、どこを目指すのかと。

ミト 本当に大事な話です。その意味を言うと、久々にいろいろ学びましたね。満島さんのセンスというか、やっぱりすごいタレントさんなんだなと思いました。その艶やざらつきみたいなのって、リバーブやエコーもかけるから普通の人はほとんど気づかないでしょうし。そこを狙ってくるアーティストって、ほとんどいない…。

 

−満島さんのボーカルはタイム感が素晴らしいといいますか、例えばAメロは溜め気味に歌ってるところも多いし、でも場合によって前めに行ってるところもあるし。あといわゆる音程感をなくしているところもあるじゃないですか。そういう加減はミトさんとどうやって相談しながら録音していったのかな?と思ったんです。

ミト もちろん歌のテンポではあったんですけども、ちょっとセリフに近い状態で歌ってもらうっていう。いかに舞台でセリフを読むような呼吸でいけるかを私は狙っていて。そもそも満島さんも、変化させながら正解を探る人なので、一言二言のレベルで“ここはこういうふうにつないでいったらこういう雰囲気になると思うんですけど、いかがですか?”という感じが多かったかな。それを全部やり終えて、最終的にある程度満島さんが体に覚えて、スラッと一本歌ったものが基本になり、その前にガイドマップ的に細かく録ったものからと抜き差ししていく。そういう感じでした。

 

−ミトさんも「セリフ」とおっしゃいましたけど、芝居の間みたいな感じが絶妙だなと。

ミト そうなんですよ。満島さんが舞台上で動いているような感じは録りたかったんですよね。歌ってるんだけれども、スッと直立しているというよりは、舞台のあちこちに動いてこの空気になっていく。そういう間の取り方的なものをすごくしましたし、満島さんの得意なことだと思うので、そこは生かせたと思います。

 

−「エレプロ」は通常、最初から最後にかけてだんだん盛り上がって行く曲じゃないですか? でも今回の「エレプロ」は、ミトさんのアレンジもそうですが、そうした満島さんのボーカルも相まって、“途中の温度感のコントロール”が効いていて、受け止める側の感情の起伏も細かくコントロールされてるような気がしたんですよね。ストーリーを複雑にしていくというか。

ミト 確かに感情の上げ下げ部分は、本来の「エレプロ」とはまたちょっと違う展開の仕方をした気はしますね。サビでワーって上がるとかじゃなくて、逆にサビで落とすとか、本来はエモくならなくていいところをあえて進んだりとか。でもそれは、言葉に寄せていった感じもあるんです。本来の「エレプロ」も、お話を聞かせるためにシンプルな構成になっていると僕は思っていて。ただ、皆さんはもうその現象を見ているので、違う舞台脚本を使って演出をする。さらにそこに独自の要素を出して、同じ原作でも違う舞台を見せられるっていうのはあるかな、と思います。オリジナルの1985年「エレプロ」には絶対にしたくないし、もともと未来に進んでいる曲だからこそ、ちゃんと未来を目指す。

 

−『TWINKLE NIGHT』の「エレプロ」が、それ以前からライブで披露されていたバージョンから見て“オリジナル”かは議論の分かれるところではありますが、それを置いておいても新しい「エレプロ」ですね。

ミト ライブのバージョンがいいという人もいるじゃないですか?それも、僕の中で一定テンポのグリッドを使わないというルール設定に関係あったかもしれないですね。宇都宮さんのボーカルや、小室さんが熱を持ってピアノを弾くタイミングには…なんて言ったらいいんだろう…解放されたテンポ感がある。やっぱりこの曲にはそうした感触が絶対必要だなと思います。死ぬほど苦労しましたけど、でもやらないとダメだなあ、と思って。


TM初期ライブバージョンの「ELECTRIC PROPHET」(1985年)。

自分の想像してたあの頃の「エレプロ」を満島さんと一緒に組み上げていった

−ミトさんが、舞台上でポツンとアンドロイドの満島さんがいるような感じとおっしゃっていましたが、最初に満島さんが「エレプロ」を歌うと聞いたときに、ちょっと予想ができなかったんです。「エレプロ」はTMにとって、最初のタイムトリップ的な内容の楽曲でもありますが、「君を迎えに行く」と言って、ギリシャの島々まで未来の僕が連れてくるという、非常に男性目線の歌詞じゃないですか。特にオリジナルでは、宇都宮さんがBメロの頭で張り上げることもあって、そういう印象があるんです。でも満島さんが歌うことで、主人公が、性別とか、ある意味で人間であることを超越した存在が歌っているようにも聴こえたんです。「エレプロ」の世界と同じストーリーを全く別の形で描いていて、それがすごく心に沁みました。

ミト 私の中ではもちろん、皆さんと同じようにオリジナルの『Twinkle Night』の世界が現体験で染み付いているんですけど、不思議なものでリリックには「ギリシャ」って書いてあるし、恋人たちのストーリーみたいな解釈もあるんですけど、やっぱり『Twinkle Night』と同時期の『吸血鬼ハンター"D"』のサントラの流れから聴くと、一回世界が終わったんじゃないか?って思うんですよ。だから、「エレプロ」のギリシャの景色は実は未来から見ていた景色、だいぶ時間を超越した世界の話だと昔から感じていました。

 

−なるほど、SFとして描かれている印象の方が強かったんですね。

ミト TMのSF感は、衣装や演出も含めて当時画期的だったりもしたし、自分の想像してたあの頃の「エレプロ」を、結果的に満島さんというボーカリストと一緒に組み上げていった感はあったんじゃないですかね。


満島ひかり


−今回の「エレプロ」で描こうとする世界が、ミトさんと満島さんの中で噛み合って、完成した形としてはそれが見事に昇華できている。そこが感動のポイントです。

ミト 私としては、ライブが見えるといいなっていうのもあったんです。最終的に満島さんと私と青弦でポツンと立ってストイックに演奏して、この世界がこのまま補完できるような。TMって、もちろんシンセだったり、打ち込みだったりもあるんですけど、僕の中では一つの物語的な発想というか、1つの素晴らしい楽曲にはさまざまな側面があるんだっていう。そういうものが出せたらいいなというところに結構こだわったかもしれないですね。もう絶対に曲順は最後にしてくださいと、頭を下げましたから。「エレプロ」を真ん中に入れるとか、マスタリングで音圧を上げるとか、そういう発想には全く僕は思い浮かばないし、一番最後に、なんだったら曲間10秒ぐらいは空けてくださいって。

 

−でも、この仕上がりを聴くとすごくその気持ちは分かります。

ミト まあ今回のトリビュートでは、私の役割は本当にこじれたFANKSだったので(笑)。ネジを巻く音も、どれが一番この曲に合うかで20個くらいのサンプルを買いましたし、からくり人形が動いているメカの音も、どのくらいの“カシャ”なのかとか、そんなことばっかりずっと考えていた…舞台の衣装を考えてたみたいな感じですね。

 

−それは、満島さん自身というよりも、「エレプロ」で描かれるキャラクター設定みたいなことですよね。

ミト そう。だから、トリビュートとして音楽のアレンジをしたというよりは、「エレプロ」という舞台の演出をした感じはあります。

 

−『音楽劇「ELECTRIC PROPHET」』produced by ミト、ということですね。

ミト そうですね。8分40秒の短編劇の演出をしたみたいな。

 

−そろそろお時間ですが、本当に素晴らしい出来でした。個人的に「エレプロ」は最も思い入れの強い曲で、こんな素晴らしいトリビュートにしてくださって感謝しています。

ミト 入れ込もうと思えば再現なく思いを入れられる曲だったわけですが、自分みたいな偏屈なレベルまで好きになっちゃった人から見ても、この曲が持つ神聖さみたいなものだけは崩さないで、FANKSの人たちに届けられてるといいなとは思います。もうそこだけですね。TMの御三方に聴いていただけることも重要なんですけど、一人のファン側から、「エレプロ」ってこういうふうに思ってますみたいなことを、ある程度総意としてできたらと。

 

−しかし、この「エレプロ」を含めて、あらためて他の方が歌っているのを聴くと、宇都宮さんのボーカルスタイルはワン&オンリーだなと思いました。

ミト 基本的にグリッドやテンポに合わせることが得意な方だからこそ、その揺らしのテクニックも破綻しないんですよね。それも、宇都宮さんのボーカルって、自分には舞台っぽく見えているかもしれないです。ずっと出来上がったまんまだと思うんですよね、宇都宮さんって。宇都宮さんが中心線で、宇都宮さんの声がこのままであるからこそ、小室さんもいろいろなアレンジができる。ボーカリストって本当に重要だなと思います。



『サウンド&レコーディング・マガジン』

7月号







参加アーティスト

CAPSULE、GRe4N BOYZ(+nishi-ken)、くるり、坂本美雨、澤野弘之 feat. SennaRin、西川貴教[=TM Revolution]、乃木坂46、B'z(+中田ヤスタカ)、ヒャダイン with DJ KOO、松任谷由実 with SKYE[=鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆]、満島ひかり(+ミト)



♪「SELF CONTROL」CAPSULE


♪「GET WILD」B'z


♪「HUMAN SYSTEM」松任谷由実 with SKYE


♪「TIMEMACHINE」坂本美雨


♪「ELECTRIC PROPHET」満島ひかり


ほっこり ご閲覧ありがとうございました。