







東京工業大学准教授
西田亮介
にしだ・りょうすけ 1983年、京都府生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程単位取得退学。博士(政策・メディア)。立命館大学特別招聘准教授等を経て現職。情報と政治、若者の政治参加、ジャーナリズム等を研究。著書に『17歳からの民主主義とメディアの授業』『コロナ危機の社会学』『「言葉」で読み解く平成政治史』など多数。
【対談】「安定かつ停滞」の打破へ、次世代の民主主義を提案する。 西田亮介VS成田悠輔
⚫︎昨年は、安倍元首相の銃撃事件(7月)に端を発し、政治と宗教を巡る話題が後を絶ちませんでした。事件を機に明るみになったのは、一部の政治家と旧統一教会との関係性であったにもかかわらず、それが「政治と宗教の関係性」とひとくくりにされ、宗教そのものを否定するような的外れな言説も散見されました。
🎓西田准教授 日本社会における宗教のタブー性や、リテラシー(情報を読み解く力)の低さを象徴していたと感じます。日本では、特定の信仰を持たない人が多数派を占めていると想像しますが、その人たちは現代社会における政治と宗教の関係性を、適切に認識できていないといえます。
欧州では、キリスト教という多数派宗教に覆われた空間を指す「聖なる天蓋」と、「ニュートラルな公共空間」の両立が社会の前提となっています。そのため、政治と宗教の関係性は、政治と社会でよく扱われる話題です。しかし日本では、ほとんど論じられない。結果として、多くの日本人は、政教分離の原則と聞くと、「政治と宗教は接点を持つべきではない」という誤った認識にとどまっています。
ご存じのようにこの原則は、国家による特定宗教の振興、排除を防ぐものであり、国民の自由な信仰や、宗教団体の政治活動を阻害するものではありません。その理解が乏しいことが、「政治と宗教」に関する通俗的な批判が過熱したことにつながったと見ています。
⚫︎そうした昨今の風潮に対して、西田先生は「政教分離の原則があまりにも雑に扱われていて、思想信条の自由の萎縮を懸念します」(「第三文明」2023年1月号)と警鐘を鳴らされています。
🎓西田 その上で、私がこの問題に関心を持つのは、宮台真司先生(東京都立大学教授)の襲撃事件に思うところがあったからです。
決して許されるべき行為ではありませんが、一方で、これは例外的な事件であったと考えます。このような重大事件が、大学のキャンパスで頻繁に起こっているかというと、実際には、この数十年間で数件程度です。
しかし、そうした一握りの例外的な出来事を機に、昨今は、大学の管理、監視の強化がどんどん進んでいるのが現実です。監視カメラを設置したり、教職員証や学生証で入れる空間を区分けしたり等、もちろん安全強化は大切ですが、それによって大学本来の寛容性や流動性が損なわれてしまうのであれば問題であると考えます。
大学というのは伝統的に、高度な自治が認められてきた領域であるといえますし、それは宗教や芸術もそうです。社会の通念に反しない限りにおいては、自由に議論する場が尊重され、守られてきた。そうした自治、自律の伝統が不可逆的に毀損されることを憂慮しています。
⚫︎旧統一教会問題の被害防止・救済法(新法)は昨年12月に成立しましたが、野党が提出した法案には、“寄付上限を可処分所得の4分の1に設定すべき”といった主張が含まれていました。しかし、4分の1という基準の論拠は不明ですし、仮に実施された場合、寄付先に年収を把握されることにつながりかねません。まさしく“過剰規制”であり、「信教の自由」や「財産権の保障」に抵触する恐れすらある内容でした。
🎓西田 個人的には、救済法の成立はやや拙速であったという認識は免れません。被害の規模や範囲など、問題の輪郭が判然としないところに、与党と野党の思惑がぶつかり合い、妥協の産物として法案が成立されたと思っています。ご指摘のように、過剰な規制になっていないか、また、実際の被害者救済にどれほど役に立つのかといった課題は残ると考えます。
その上で、今言われた、野党の提案のどこが問題だったかといった、事実に即した議論が発信されることに大きな意味があります。「4分の1」といっても、宗教団体が信者の資産情報を一元的に管理する必要が生じることから、個人情報管理の点からかえって問題はありますし、そもそも裕福な人にとっての4分の1と、生活に困窮している人にとってのそれは意味が違います。冷静に考えると、あまり練られた法案ではなかった印象です。
「隠れた多数派」としての存在感
⚫︎SNSでは、あらゆる情報が瞬時に拡散されます。
🎓西田 公式の立場から積極的に発信をすることは重要だと考えます。偽情報が流通しているのであれば、正しい情報を提供すべきなのも、対抗的発信をすべきなのも、当事者をおいてほかにはあまり期待できないからです。その上で、共生と相互理解促進のために、対外的発信強化も重要でしょう。
創価学会には、強い相互扶助のコミュニティーがあると感じました。地域のつながりが弱くなった現代においては、とても希少であると思います。皆さんはあまり意識していないかもしれませんが、公称800万世帯超の会員を有する創価学会は、他に類を見ない規模の中間集団です。私のような非会員からすれば、「隠れたマジョリティー(多数派)」です。
「隠れた」と申し上げたのは、会員数や社会で持つ存在感の大きさにもかかわらず、その活動内容が一般には知られていないからです。一方で、例えば学会が支持する公明党は政権与党の一角を担い、権力に近いところにいます。正しい情報を持たない人からすれば、不安を感じ、誤解や疑惑の目を向けるのは、理解できないことではありません。だからこそ、積極的に社会に発信し、コミュニケーションを取ることが大切です。
統一地方選へ「大衆とともに」
⚫︎本年春には全国で統一地方選挙が行われます。
🎓西田 さまざまな政党の人たちとお付き合いしてきましたが、公明党ほど一貫して、「大衆福祉」を掲げ、生活者の味方となって、幅広く多くの国民益に関心を持ち続けてきた政党は、ほかにありません。とりわけ連立与党となって以降、一定程度の影響力を発揮し続けてきた公明党の存在は、日本においてとても重要であると思います。
集団的自衛権の行使容認に重要な制約が付けられたことなどに象徴されるように、極端な方向に振れやすい場面で、公明党の働きかけが歯止めとなった具体例はいくつもあります。
⚫︎特にネット選挙が解禁となって以降は、政治家が持つ主義や主張、情報の正しさよりも、「分かりやすさ」が強い印象を残し、大衆受けする言説で一定の支持を得る政党も出てきました。西田先生が言われるように、SNSを駆使して発信を強化していくことが大切だと感じます。
🎓西田 誰も見ていないところで重要な活動をしているからこそ、それを訴えていかない手はないですね。時代の流れに対応した発信のあり方を、これからも期待しています。
『創価新報 』1月号より抜粋











