


今日は識者のインタヴュー記事をご紹介させて頂きます。なんと聞き手が僕の地元の後輩なんです。何卒よろしくお願い致します


2017年、日本人女性として初の国連事務次長となった中満泉さんに、創設75周年を迎える国連の役割をはじめ、軍縮の現状と課題、また市民社会や女性、若者への期待などについて語ってもらいました。
🇺🇳国連事務次長
軍縮担当上級代表
中満泉さん
【なかみつ・いずみ】早稲田大学卒。米ジョージタウン大学大学院修了。UNHCR旧ユーゴスラビア国連事務総長特別代表上級補佐官、同副高等弁務官特別補佐官、国連PKO局アジア・中東部長、同開発計画危機対応局長などを歴任。2女の母。
-現在のコロナ感染や気候変動など地球的課題が山積する中で、国連は創設75周年という節目を迎えました。
先日の創設75周年記念のハイレベル会合における各国首脳の演説で、私が強く感じたのは、ほとんどの方が「こういう危機だからこそ、国際協力が必要であり、国連の存在が重要だ」と訴えてくださったことです。
国連の改革すべきことは改革し、強化するところは強化する。多様な国の人たちが、それぞれの視点を持ち寄り、話し合ったことを一つにまとめていく。それが今、国連に課されている大きな役割だと思います。
-国連を支える市民社会に期待されることは何ですか。
市民社会の果たす役割は非常に大きいといえます。重要な国際条約ができるまで、国際世論の大きなうねりを起こしてくれたのは、市民社会の活動でした。それに背中を押される形で、各国政府が交渉のテーブルに着く。それほど影響を与えています。
とりわけ、国連が強く期待しているのは、若い日たちの役割です。軍縮分野でも、若い人たちが創造的な活動をしています。自分たちでできることを考えていて、本当に勇気づけられます。
-核軍縮を巡る現状認識と、今後どのような努力が必要かを教えてください。
核軍縮を巡る安全保障環境は、非常に厳しい状況です。アメリカとロシアの対立に加え、アメリカと中国の対立が深まっている。
中東や南アジア地域でも緊張状態が続き、北東アジアでも核拡散のリスクが高まっている。今は恐らく冷戦後、一番危険な状況にあると思います。
核保有国には対話を通じた安全保障を真剣に考えてほしい。私たち国連が常に訴えていることは、軍縮というのは各国の安全保障の重要なツールである、ということです。対話をする、交渉をする、それによって、軍拡に頼らずに安全保障を確保できるのです。
そんな中での朗報は、核兵器禁止条約の発効が近づいていることです。発効要件となる50カ国(現在47カ国)の批准手続きが完了した90日後に、いよいよ発効となるので、私たちもそのための準備を始めています。
-「核兵器のない世界」とは、「平和の文化」の視点からどう捉えればよいでしょうか?
平和というのは単に戦争がない状態をいうのではなく、あらゆる側面から平和のための条件が確保されて初めて実現するものです。
その意味で私は、「核兵器のない世界」というのは、世界共通の目標であると同時に、それを目指すこと自体が、「平和の文化」の構築といった、包括的な平和をつくるための非常に重要なプロセスであり、手段であると考えています。
国連には軍縮だけでなく、開発、気候変動、人権など、さまざまな分野の部署があります。それぞれが一歩一歩、着実に駒を進めながら、本当の意味での平和を創出していくことが大事なのだと思います。
-今月で、女性の平和構築への参画を促す「国連安保理決議第1325号」の採択から20周年です。
"平和と安全保障の問題には女性が中心にいなければならない"ということを国連安保理で明確に宣言した点で、歴史上、極めて重要な決議です。
この決議が正しかったという証拠に、これまで世界各地で成立した和平合意を調べてみると、女性が参加してつくられた合意の方が長く守られているということが、データできちっと証明されました。女性が平和問題に中心的に関わることが、いかに重要かということです。
核兵器禁止条約も、(広島での被爆者の)サーロー節子さんが重要なメッセンジャーとして主導され、ICAN事務局長のベアトリス・フィンさんが推進力になった。女性が声を上げて動いたことが、直接的に成果につながっている。
-中満次長は、紛争や難民支援の現場で、タフな交渉を経験されてきました。その際、ご自身の信条として大切にされてきたことは何でしょうか。
恩師である緒方貞子先生(元国連難民高等弁務官)から学んだのは、やはり「現場が大事」ということ。
弱い立場の人のことを本気で考えるなら、現場を見て、現場を経験しなくてはいけない。
難しい交渉をする時は、相手のことをきちっと理解する。相手の話をよく聞くことが大事だと思います。
よく日本人は強く主張しないので国際社会では損をするといわれますが、全くそうは思いません。コミュニケーションとは一方通行ではなく、双方向です。
もう一つは、常に誠実であることです。特に紛争地帯では、正直、信頼の置けないような相手もいます。それでも、「私は、あなたの考えを聞きます。誠実に対応します」という姿勢・態度を貫きました。
信頼関係を得るためには「いつも話を聞こうとする中満が相手だったら、言うことを聞いてもいい」というふうに思ってもらえるまで、誠実を通すことだと思う。
特に軍縮は、なかなか進まないからこそ、誠実さが求められます。
核兵器だけでなく、小型武器や地雷などの兵器で負傷した人の話に真摯に耳を傾ける。彼ら、彼女らの痛みを本気で理解したい、共有したい - それができて初めて、"よし、私たちはこの厳しい現実の中でもこうやっていこう"となれるのです。
これは、難民支援や紛争の現場でも同じことだと思います。
またそうした現場では、苦しい状況に置かれていても、人間の尊厳を手放さず、良心や勇気を持って生きている素晴らしい人たちがたくさんいます。
そういう人たちとの出会いは一生の宝ですし、それが私にとって今、頑張れるモチベーションにもなっています。
『聖教新聞』10月15日付より抜粋

2016年
🇵🇹アントニオ・グテーレス国連事務総長と