誰だったかは忘れてしまったが安倍さんへのテロ行為に関連して、「山上容疑者が恨むべきは教団ではなく、もちろん安倍さんでもなく、母親だろう」「しかし山上容疑者の母親が自分の財産を何に使おうと自由」などと言っているのを見かけた。
たしかにその通りだろう。
そもそも山上容疑者も社会人になのだから、誰かを恨みに思うよりも先に、自分の力でよりよい生活をつくることを考えればよかったではないか。
それに関連して私にも思い浮かぶことがある。
もう20年ぐらい前になるか。
私の父親はかつて地元の信用金庫で支店長まで務めていて、最後は何か下っ端の役員ぐらいにはなったのかな?
定年を迎えると退職して自分で何やら商売を手掛けようとはしていたようだがどうにもパッとせず、挙句には支店長時代に付き合いのあった人間にダマされて財産の多くを失ってしまった。
そのころ既に私は東京で働いていたので詳細まではわかっていないのだが、聞いた話では「巨額の遺産を相続するための費用」が千万単位でかかるという話に乗せられて、周囲からもカネを集めて渡していたという。
それがどのくらいの範囲にまで及んだかわからないが、少なくとも姉夫婦からは何百万かは預かっていたようで、それが詐欺と判ってからはすっかりしょぼくれてしまって姉夫婦らに頭を下げながら過ごしている。
詐欺に遭っている最中のこと、姉は「お父さんが何かおかしなことにダマされているみたいだから説得して」なんて私に電話をかけてきて、それで私が父親を説得したりもした。
どういう事情があったかはわからないけれども詐欺に遭っていると思いながら姉は自分で何もできなかったわけだ。
それでいて、いざ父親がダマされましたとなった時には「出したカネは返してもらう」って、そんなの半分は自分のせいじゃないか。
まあ父親がそれで納得しているのなら私がどうこう言える筋でもないのだが……。
ダマした側の人間というのは私が子どもの頃には父親に連れられてその人の家に何度も行ったこともあるぐらいの関係で、そういう人でもダマしにくるんだなあと人間の怖さというかカネの怖さを深く感じたものだった。
まあ相手からするとカネを貸してくれる銀行員だからいい顔をしていたというだけで、友人のつもりなど端からなかったのだろうかね。
寂しい話だ。
この一連の詐欺行為について改めて考えてみると、私個人としての「恨み」っていうのはないなあ。
詐欺に遭わなければ父の死後にはいくらかの遺産もあったのだろうが、それについても特に思うところはない。
やっぱりそんなことを恨みに思って復讐に時間を割くよりも、自分と嫁娘の生活を守ることのほうが大切だし、そもそも私だって今後の人生においていつダマす側やダマされる側に回るかもわかったもんじゃないんだから。
唯一不快に感じるのは、どんな事情であれ自分の意思でカネを出していながら、まるで他人事のように「カネ返せ」と言い続ける姉夫婦だけだったりもする。
みんな自分の責任のなかでダマしたりダマされたりしているのに、「私は関係ない」というような顔で罪やミスを糾弾するだけの人間は大嫌いだ。