部屋を片付けていたらずっと未読のままにしていた又吉直樹『火花』の文庫本が出てきたので読んでみたのだが……。
なんかダサかったというか、ぶっちゃけ「ヘタだなあ」というのが正直な読後感で、たとえるなら学生お笑いサークルの子が演じるたどたどしくてオチをしくじったコントって感じ?
ストーリー自体はまあまあ読めるのだが、「己に純粋だが時代に合わない破滅型芸人」という題材はありきたりといえばありきたり。これまでにもさまざまなジャンルにおいて、さんざん扱われてきたモチーフだろう。
文章がしゃちこばっていて読みにくいし、作品内にちょこちょこ挟まれるメール文や漫才などのネタがひたすら薄ら寒い。
文章で「お笑いのネタ」を描くことが難しいのはわかるのだが、それにしてもだ。一応は本職なんだからそこはきちんと面白くするか、できないならそこは省いた表現もできたのではないか。
まあ又吉本来のネタ質っぽくもあるので、単に芸人・又吉が私の肌に合わないというだけなのかもしれんが。
主役の神谷先輩のキャラもなんだかよくわからなかったなあ。
そりゃあ人間には多面性があるわけで、芸人および人間としての良い面、悪い面をそれぞれ表現しているということなんだろうが、そこをちゃんと伝えるためには言及が少なすぎるんじゃない?
ついさっきまで強気だったのに突然ナイーブになってみたり、あとラストシーンのおっぱいとかいる?
なにか破調を取り入れたかったのかも知れんけど、その時の正解はおっぱいなのか?
シリコンを入れたことを悔いるなら抜けばいいだけだし、「借金で追われてるのに手術ってなに?」などと理解が追い付かず、結局最後の最後までそれがマジなのか比喩なのかもよくわからなかった。
作者は「おもしろ」をやりたかったのか「不条理」をやりたかったのか。あるいは哲学的な何かを提示したかったのか。
何かしらのたくらみがあってのことなんだろうが、私としては和食のコースを食べていたら最後にイチゴのショートケーキが出てきたみたいな、妙な違和感ばかりが残ってしまった。
「最初から最後まで神谷は徳永の頭の中だけの存在だった」と考えればすんなり飲み込めそうにも思うが、そうした記述はあったっけ?
これまでにも芥川賞受賞作はいろいろと読んできたのだがなあ……。
もうちょっとちゃんとしたものを書いているのだろうと思っていたもので、ちょっと期待外れ感が大きい。
ネットフリックスだっけ? 以前ドラマのテレビCMで断片だけみて想像していたものよりは、かなり下回っていたように感じた。
時間も経って文筆家として成長しているのかもしれないが、私はもういいかな。