何日か前のこと。これまで請け負ったことのないタイプの仕事で1日中パソコンの前でアタマを捻っていて、夜にはすっかり憔悴しきった感じだったんだけど、やっぱりいくらアタマを使ったからといっても動いていないもんだから、風呂前に体重計に乗ると1キロくらい目方は増えているわけですよ。

 

 そうしてみると、対局時に2キロくらい体重が減るぐらいにアタマを使うというプロ棋士ってのはいったい私の何倍ぐらい脳みそを働かせているのだろう。

 ちょっと想像が及ばない。

 まあ背もたれのある椅子に座っているのと正座では代謝に差があるのかもしれないけれど、それにしてもだ。

 

 先日の王位戦第一局。

 改めて棋譜をみると木村王位もすごいのな。

 渾身の受けというか嵌め手というか、ひとつ間違えればたちまち逆転というような手を何度も指していて、それが「いかにも嵌めます」って感じじゃなくて、実に自然な流れの中でやっている。

 解説の広瀬が「えっ? 先手3三金でダメなんですか」なんて言ってたぐらいなので、きっと木村王位はこれまで、こういった受けで勝ってきたということなのだろう。

 

 素人考えではあるが、木村王位にとっては最終番に至るまで「会心の譜」だったのではないかなあ。

 

 だけど藤井七段は中盤の時点でたっぷり時間を取って、こうした受けが繰り出される展開も既にしっかり読んでいたわけだ。

 罠にハマって頓死することなくしっかりと勝ち切ったその読みの力は、完全に木村王位を上回っていたかのようにうかがえる。

 

 これまでの勝ちパターンを破られたのだとすれば木村王位は辛いなあ。

 初戦は後手で藤井七段得意の角換わりを受けて立ったわけだが、さて次局、先手番となってどう出るのか。

 次に藤井七段が勝つようなら4-0まであり得るかもしれない。

 

 棋聖戦では先手番後手番ともに完勝していて、残り3戦全敗というのはちょっと考え難いし、うーん。

 「殺人予告」にも動揺したふうはなかったし、よほどの疲れだとか体調不良などに見舞われない限り、最年少2冠獲得は固そうだ。

 なんならこのまま秋には竜王とかも獲ってたりしかねない。

 

 藤井七段の強さの秘訣は、これもまた素人考えなのだけれども、「まだまだ将棋を面白く指している」という点にあるのではないかな。

 このところの対局では「ソフトが6億通り読んでようやく好手と判断した」とか、「ふつうの棋士の感覚では思い付けない」などと言われるが、そういう手を指せるのは定跡や経験則から「ここはこう指すもの」という固定観念に縛られず、「こうなったらどうなるんだろう」という純粋な探求心があってのことではないか。

 

 アンチは「AIの手をなぞってるだけ」なんてことを言うがいかにも考えが浅い。

 真似るったってAIの指し手の意味をきちんと理解していなければ、実戦で使い様がないわけで、AI研究を活かせるというのはそれだけ将棋そのものに対する理解が深いってことだろうよ。

 

 やっぱりこれはホンモノの天才なんじゃないかなあ。