「宝生流第二十代 宗家継承披露能」の感想 | 能楽師 辰巳満次郎様 ファンブログ

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十月七日、それも火曜日の十二時開演というこの会を、なにもかも放り投げて、観に参りました。
でも「行ってヨカッタ~!」という会でした!!!

 

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開演は十二時です。それで「翁」は神事なので始まってしまったら中には入れません。実は昨年の1月月並の「翁」に、5分遅れて到着したらもう見所には入れてもらえませんでした。今日はゼッタイにそれは避けねばなりません。とは言いつつやはりギリギリの到着…。(;~o~) アララ…。
いつにも増してロビーは盛装の方々でイッパイ。歌舞伎座なんかと比較してしまえばずいぶんと地味ですが、それでも華やかな雰囲気はお祝いの会にふさわしいです。
なかでも一際目立つ、赤地の(宝尽し?の)総模様の上品な大振袖を着たお嬢様が一人。どうも今日の主役の妹君らしいです。美人!

 

 

まあ、それはさておき、中身の感想を…。
「翁」はスゴクよかったです。感動しました。
弱冠22歳でご宗家を継承された訳ですが、橋掛かりに足を踏み入れた瞬間から、もう空気が違います。何もかもを無心で迎えようとする謙虚さ、かつ責任の重さに雄雄しく立ち向かってゆく静かな決意、さらにはそれらさえも何もない積極的な「無の境地」、そんなものが感じられて、それだけで感動してしまいました。
技術的なものや経験は毎年お正月に「翁」を披かれる大先輩方の方が遥かに勝っているでしょうが、その方々には降りない特別な何かが降りている、そんな風に感じました。
そして若い若いシテが「翁」の面を付けた時、神様ってこんな感じ?(見た目は老人でも中身が若者)って思いが、ふと、よぎりました。
それにしても、まあ、ゼイタクな顔ぶれ…。武田孝史師の千歳なんて、もう二度と拝めないと思います。
地頭には佐野萌師が勤めていらっしゃいました。確かご宗家は武田孝史師には芸大で、佐野萌師にはそれ以外で薫陶をうけていらっしゃったはず。そういうご縁で今日のお役なのかなぁ、なんて考えながら拝見していました。
山本東次郎師の三番三もすばらしかったです。なんと御年は来年、喜寿! 当然野村萬斎師のようなカラス飛びはできませんが、それでもすっごく飛ぶんです! 狂言の方々の体の鍛錬はすばらしいものがあります。
それで、今回ワタシは脇正の席だったのですが、「揉ノ段」が終わり、黒尉の面をかけているところが良く見えて、結んだ紐は動かないように背中のところのループに通しているのが見えました。面の紐が鈴に絡まってほどけたら大変ですものね。
それで「鈴ノ段」も大好きなのですが、毎回、これは大地に五穀豊穣の祝福を与えて、実りを祈願しつつタネを蒔いているのだとずっと思っていたのですが、もう少しで終わりというときに三番三がふと足元を見込みました。その時に「アッ、芽が出たんだ!」と思い、なんだかメチャクチャ感動しました。(ホントはそんなんじゃないかもしれませんけれど…)
翁に神が懸かり、天の祝福を地に下ろす。そしてそれを三番三(人間)が踏み固めて(努力して努力して)地上に実りをもたらす。正式にお役を継承したんだな~、その神事に参加させていただいたんだな~、という感を深く感じた一番でした。

 

 

休憩後は、奉祝の番組が続きます。曲目もそれにふさわしいものばかり…、です。
それで、宗家継承の記念の仕舞扇というのが誂えられており、これ以降は、他流の方もすべてその扇(金地に少し淡い金の五雲に、宝生の紋が入っている)を使っておられました。

 

 

「鶴亀」の独吟は、最古参の渡邊三郎師です。この年齢で…、スゴイです。この方からみれば、孫が成人式を迎えた、みたいなそれ以上の感慨深い日だったんだろうと思いました。

観世清和師は、夏の「囃子の会」での「楊貴妃」を拝見してから、感服しています。この日もきっちりと「難波」を舞われました。つい最近の青雲会で「難波」を拝見したので、宝生と観世の違いが良くわかります。
特に、入日を招くだったか、そこが全く向く方向が違います。宝生は笛座に向かいますが、観世は橋掛かりの方を向いてマネキます。興味深いです。

金春の「八島」も、シテの謡が衝撃的でしたが、地謡がすばらしく、堪能しました。で、宝生は2枚扇を使って1本を刀にするのですが、金春はいままで楯だった扇を突然閉じて刀にしたので、ビックリです。でもお祝いだったら「田村」の方がふさわしかったのにな~、とちょっと思う♀…。「八島」好きですがそう思ってしまいました。

狂言小舞の「七つ子」は、地唄(上方唄かな?)にもありますね。ワタシが知っているのは「おちや乳人」という曲。昔は、七つ未満の子供は神様からの預かりもので、突飛な事をいうのは神懸かったからだと考えられたとのことだとか…。幼ない子が「殿が欲し」というた、そのギャップに思わず笑ってしまう、ほのぼのした曲です。狂言の謡の方が何となく哀愁がある、というのも不思議なものです。

舞囃子の「高砂」は、モウ、お囃子を聴くだけで興奮して鼻息が荒くなってしまいますね!
三川泉師は三段の神舞でした。軽々と舞われて、本当に「颯々の声ぞ楽しむ」にピッタリです。もう声量はあまりないので、最初の謡はお囃子にかき消されてしまいましたが、そんなことは気にならない「高砂」です。あ、ここにも神が居るって感じかしら。
→余談ですが「高砂」でお囃子に負けずに謡が聞こえるのは「辰巳満次郎先生だけよ!」と、ワタシの友人達は断言してます。ワタシもモチロンそう思います、ハイ。

金剛の「草紙洗」も地謡が素晴らしかったです。仕舞の出だしのシテ謡が宝生とは違いました。宝生だと中ノ舞が終わった後の謡が、金剛では仕舞の出だしのシテ謡でした。
「草紙洗」もこのキリの謡は詞章も本当にステキです。金剛の謡は微妙にメロディーが違い、ちょうどバイオリズムの曲線がずれているような感じ?がしました。

喜多の「岩船」ですが、喜多六平太師が都合により欠席だったので、素謡になりました。
謡は素晴らしかったです。
 「宝を寄する波の鼓」
もうもう今日の催しにピッタリの謡です。今回五流が揃った訳ですが、心なしかどの流派も他流に負けじと素晴らしい謡を披露してくださったように思います。

狂言の「福の神」も飄々としていて良かったです。それでまた「大藏&善竹」ファミリーです。まるまる一ヶ月お付き合いしたことになります。でも好きだからイイんだ~。
ワタシは福の神がやってきて「楽しくなるには、 元手が要る!」 というところが好きで、いつも何となく笑ってしまいます。

 

 

さて、いよいよ今日のもうひとつの目玉の「春日龍神」です。
これを書いていてふと思い出したんですけど、何年か前に鹿嶋神宮での薪能の時と全く同じ演目(翁・福の神・春日龍神)です。あまり関係はありませんが…。
さてこちらも今井泰男師のシテですが、前シテは面をかけていません。でもかけていなくてもなんらの違和感がありません。そのままですごく自然でした。なんかここにも神が居るって感じ?
今日はすべてが特別ですね。
間狂言は野村萬斎師です。この方も本当に特別な人です。延々と長い語りを微動だにせず勤めました。末社の神だから舞うのかと思っていたら、唐天竺まで、どれだけ遠いかということをとうとうと語るだけなのね。
   2008/10/17追記
   プログラムをちゃんと読んでいなかったので、この春日龍神の小書の「町積(チョウズモリ)」
   が、実は狂言方の小書だったってことを昨日しりました。 <(_ _)>
   日本国から唐、天竺までの行程を細かく説明するというめずらしい立シャベリだそうです。
   確かに、そのとおりでした。で、長かったです。
で、いよいよ龍女・龍神を打ち従えて後ジテの堂々たる歳経りし老龍神(白頭・宝生会のHPの動画のとおりです)が登場です。
もう、スペクタクルです! 見所からもどよめきが…! ワタシはこのとき脇正面を取ったことをちょっと後悔しました。(近くで拝見できたのは良かったですけど)
龍女・龍神の龍戴ってぜんぶ違う絵?でした。オスとメスがいるってのは聞いたことがあるんだけど、シテを含めて12神、みんな違う個性の龍らしいです。
たとえば写真とかで残して、それをつけた演者とを見比べたら、きっとそれぞれの個性にあった龍を戴いてたんじゃないかな~。
ここの謡は団体稽古で一度やったことがありますが、龍神の名前が続き、舌が回らないし息切れはするし、さんざんだった記憶があり、それでシテ以外11柱の龍神の名前が全部あるんだろうか、謡わない龍神がいるんじゃないか、とちょっと心配したんですが、無事全員謡いました。
ここでも、ひとりひとりが気合を入れて名乗りを上げるのか素晴らしく、ゾクゾクしました。
シテが舞台に入り、龍女2柱と龍神4柱が最初に名乗りをあげて「引き連れ」て舞台に入ります。アレレ、残りの5柱は?、と思ったら次の謡でひとりずつ名乗ります。ここでも辰巳満次郎師の一際とおる声(ホンモノか?と思うばかりです~)。
さすが次の5柱の龍神は舞台に乗れませんから橋掛かりイッパイに広がって、待機。
まず龍女が天女の舞を舞いますが、合いません(笑) これはもうしょうがないです。続いて龍神全部でハタラキ。これも2~3人ずつのカタマリでは合ってますけれど、ちょっと離れてると合いません(笑) しょうがないですね~。合うことは今回それほど重要ではないです。この圧倒的な迫力! 12柱の龍神&龍女揃って、宝は日本にあり入唐渡天を留まるべしと迫るのですから、さすがの明恵上人も日本に残ることになってめでたしめでたし、で宗家継承能は幕を閉じたのでした。

 

 

終わってみればまだ4時…。ワタシはお友達とご宗家のこれからの活躍を祝してカンパイし、この日の舞台のイロイロをサカナに?おおいに盛り上がったのでした。