なんとなく伝記的なものばかりになってしまいました。
でも何かを成し遂げた人々の人生を追うのはなかなか刺激的です。
自伝も面白いのですが客観性に欠けることも多々あるので
そういう点では多くの人に取材したルポタージュは、
欠点も含めた対象人物像をより深く描き出せるものだと思います。
あくまでも客観的な視点に徹した作品はいずれもその時代がどのようなものであったか
またその人が時代の中で果たした役割や意義も明確にしています。
そのように淡々と書かれているにもかかわらず、読み手に深い感動を与えるのは
対象者本人自身の魅力はもとより、やはり事実を丁寧にかつ第三者目線で冷静に伝えようと
努めた筆者の矜持によるものなのかもしれません。
この手のものの中には、筆者の思い込みや独自の意図がかなり入ってしまい
読み手が攪乱されたり、考えを限定されてしまうような作品もあります。
そういう書き方はワタクシ的には好みではありませんし、
いっそのこと小説にした方が良いのにと思うこともあります。
キャパ 「その青春」・「その戦い」・「その死」
戦場カメラマン ロバート・キャパの誕生以前から死までを3巻に分けて
丹念に追ったルポタージュ。
原作そのものが力のあるものだと思うし、沢木耕太郎氏の翻訳も良かった。
本編に迫る勢いの大量の脚注も沢木氏らしさがあふれていて、
キャパ本人の情熱だけでなく、この本にかかわったすべての人たちの
情熱をも感じることのできる一冊。
キャパ その青春 (文春文庫)/文藝春秋

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キャパ その戦い (文春文庫)/文藝春秋

¥637
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キャパ その死 (文春文庫)/文藝春秋

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「ライカでグッドバイ」
ピューリッツァ賞を受賞し、ベトナムにて没したカメラマン・沢田教一さんの人生を
追ったもの。
こちらも大変な力作で、私にとっては30年近い愛読書となっています。
沢田さんはキャパのようになりたいと願い、そして実際に日本のキャパと
呼ばれるようになりました。
でも、実際の二人の性格も写真も陰と陽のように異なります。
「日本の~」というのは便利な言葉ですが、やはり沢田さんは沢田さんでしかないですね。
男性にはぜひ読んでおいていただきたい一冊だと思います。
ライカでグッドバイ―カメラマン沢田教一が撃たれた日 (文春文庫 (375‐1))/文藝春秋

¥484
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「戒厳令チリ潜入記」
チリ亡命中の映画監督 ミゲル・ルティンが祖国に変装して潜入した際の記録。
ノーベル賞作家 ガルシア・マルケスによる作品で、ジャーナリスト出身の
マルケスがルティン自身や協力者の苦労や危険、また当時の政治状況を
世にあるスパイものの小説や映画など比にならないほどの緊迫感と迫力をもって
克明に描いています。まさに息をのむような・・・という感じ。
戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)/岩波書店

¥799
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「アンダー・グラウンド」・「約束された場所で」
村上春樹による、地下鉄サリン事件についてのインタビューをまとめたもの。
前者は被害者に、後者は加害者つまりオウムの信者(元信者も含む)に
取材したもので私の村上春樹評をさらに1段上げることになった作品です。
まえがき、あとがき、河合準雄氏との対談なども含め大変に読み応えがありました。
被害者インタビューは思っていたよりもずっと淡々とした答えが多く、
読み手に直接哀しみや苦しみを共感せよ!と押し付けてくることはありません。
ドラマチックに仕立てあげているのはいつも第三者で、そしてその第三者たちは
決して彼らと痛みを分かち合うことができない。
それがとてももどかしく、また申し訳ないことのように思いました。
アンダーグラウンド (講談社文庫)/講談社

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約束された場所で―underground 2 (文春文庫)/文藝春秋

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「これがあなたの母」・「子供たちは7つの海を越えた」
私の尊敬する澤田美喜さん。
三菱財閥直系のお嬢様でありながら、戦後米軍の落とし子たちのために
私財を投じてエリザベスサンダースホームと、彼らのためのステパノ学園を作り
多くの(親に見捨てられたり行き場のない)子供たちの面倒を見てきた方です。
「これがあなたの母」は澤田美喜さんご本人について、
周囲の方々に熱心に取材を行った力作。
決して気高く美しい精神の元、誰にでも平等に・・・というわけでは
なかったようですが、それを知ったことでますます美喜さんと言う人間が
好きになりました。
「子供たちは7つの海を越えた」は日本テレビが1970年代に
その後の子供たちを海外に取材した際の内容を書籍にまとめたもの。
これも大いなる感動とともに読み終えました。
いずれも残念ながら絶版です。
古書でお探しいただくか、図書館でどうぞ。
これはあなたの母―沢田美喜と混血孤児たち (1982年)/集英社

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子供たちは七つの海を越えた―エリザベス・サンダース・ホーム (1979年)/日本テレビ放送網

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