「蜘蛛女のキス」 マヌエル・プイグ | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.



今から30年ほど前に読んだ作品の再読。
当時上の空で読んだ印象があり、大まかなあらすじと結末は覚えていたものの
特別好きな作品とも思わなかったような気がする・・・ただ、これでもう
オシマイにするのも納得がいかず、ずっと手元に置いたままでした。
ようやく再読し、そのことに今はとても満足。

ゲイのモリーナと、政治犯のバレンティンのお話。
ごくごく一部の場面を除くと、小説の舞台となるのは刑務所の監房の中だけ。
そして、やはり9割以上が二人の会話だけで成り立ち、その会話の多くも
モリーナが語る映画のストーリーという、変わった小説の多いラテンアメリカものの中でも
さらにまた独特の形態。
状況説明の文章も無くただただ会話だけ・・・でもシナリオなどとはまた違う。
かきたてられる想像力を使って、読み進めた・・・というなんとも不思議な作品でありますが、
映像に頼らずに人を感動させることのできる文学の力を改めて認識できる作品でもある。

物語の進行とともにモリーナの語る映画の内容も、結末を暗示するようなものになっていく。
とても作りこまれた作品だと思う。
お互いがお互いを何かの代替品としていたような気はするけれど、
最終的には代替品が主役を取って代わってしまったかもしれない。

理想に燃えるバレンティンの思想も理屈も主義も、ここでは何も役に立たない。
そしてモリーナから無意識に搾取している・・・なんとも哀しい姿。
でもモリーナの献身とそれを受けとるバレンティンの弱気や羞恥心、
ふたりのふとした言葉のやり取り、表現・・・それらがズキズキするような
痛みと感動を残します。
読み直して本当によかった。


この作品は映画にもなり、私も見ました。でもやはりあまり印象にないのは
同時上映が「ナイン・ハーフ」だったからかもしれない・・・アレ、刺激が強すぎた。
でも、再読後の今思うのは、この作品は映画よりも舞台向けかな?と思う。
とはいえ先にも書いたとおり、この作品はやはり文字で描かれた作品として優れていると思う。



私の本の間には当時のまま、薄手の別冊(月報)がはさんであり、書評やプイグの
出身地アルゼンチンについての寄稿がいくつか掲載されていましたが、
このときの書評は村上春樹でした。
集英社が1983年ごろに「ラテンアメリカの文学」という全18巻の全集を発行した中の
1冊でした。
私はこの作品だけを手に入れましたが、今その収録作品を見てみると(買っておけば
よかったな)とつくづく思います。


細かい文字で、しかも二段組み。読み応えあります。

蜘蛛女のキス (ラテンアメリカの文学 (16))/集英社

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モリーナ役はウィリアム・ハート。
熱演されたこととは思いますが、記憶に無くて残念。

蜘蛛女のキス スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]/ウィリアム・ハート,ラウル・ジュリア,ソニア・ブラガ

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