「マーロウ最後の事件」レイモンド・チャンドラー | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.



表題作を含む4編を収めた短編集です。
いや、短編というには各作品やや長めなので、中編・・・なのかな!?
うち3作は後の長編につながるものでした。

ハメットのザラっとした感じ(私には)のあとだと、
やはり私はチャンドラーの書くものの方がいいなと改めて思う。

特に情緒的に書いているわけじゃないけれど、ちょっとした一文が
ぐっと来るというか・・・単にハードボイルドなだけじゃなく
プラス αがたくさんあるって気がします。

今回の翻訳は稲葉明雄さんで、ハードボイルド系をかなり翻訳されていますが、
それゆえにこの系統の文章が練れているのか、とにかくとても良い感じ。
でも清水訳、村上訳もそれぞれのよさがあるので、やはりチャンドラーの
原文がすばらしいのでしょう。
それを堪能するために英語で読む、という気力が無い自分が残念だ・・・。

チャンドラー作品は「かわいい女」以外の長編はすべて読了済みなのに
一つ一つの作品のストーリーを思い起こすと、??とあいまいな私です。
金髪美人に悪役、気心知れた警察官と敵愾心を持つ警察官といった
パターンによるものかと思いますが、ま、正直ストーリーそのものよりも
その流れ、文章を楽しんでいるので仕方ないかな、と。
で、この長さに凝縮されたものをまとめて読むと、かなり充実した気分になります。
1篇ごとの質も高く、読後の満足度はかなり高し。


「湖中の女」 同タイトルの長編もあり。
正直これも途中の細かいディテイルがどれだけ長編と重なっているのか
判別不能な状態ではありますが、これらはこれでい良作品でした。

「女を裁け」 後の「さらば愛しき女よ」
これはとてもよかった。
こちらも長編の細かい部分は忘却のかなたになっている私ですが
でも、長編の読後感よりもこちらの作品の方が印象的・・・なのは
やはり私が忘れていることが原因??

「翡翠」 後の「高い窓」

これは長編もわりと最近読んだはずなのですが、やはり細部はすでにお忘れ。
こちらの中編を読んでも殆ど記憶がよみがえることも無いまま読了してしまいました。
それだからというわけではなくとも、私はこの作品にはやや消化不良の感が
残っています。すらっと読み切れなかったというかな。
悪くは無いです、決して。あくまでも私の読中読後の印象・・・
(この悪くは無い・・・は私としては「良」の部類なのですが
なかなか他の言葉でうまく表現できず、毎回はがゆい。)

「マーロウ最後の事件」
こちらは、チャンドラーの没直後に雑誌掲載されたものだそうで、私は初読。
この作品は「女を裁け」とともに、とても印象に残りました。
マーロウがちょっと元気が無いというか、どこか弱気というか
孤独感みたいなものが漂っていたように思う。
チャンドラーが高齢に達していたからだろうか?
この印象は単に「最後」という言葉による影響だけじゃないと思うけど、
でもこんな感じのマーロウは、ワタクシ的には結構好きです。


短編集やアンソロジー集も手元にまだあるし、長編も改めて、
今度は発表順に読み返したいと思っています。

違う作風の作家物を読んだことで、再度チャンドラー作品の質の高さを
確認できたように思います。
やはり、好きゆえにある一つの作品(あるいは作家)だけに固執していると、
かえってその作品(or作家)のより大きなポテンシャルに、
実は気がつけないものじゃないかと思います。




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