以前の感想を読み返してみたら、この作品ではじめて村上春樹の小説が創作であると
認識したようです。
この方の設定は、一般的な小説に比べるとはるかに現実感がないように思えるものなのに、
なぜか、実際にありそうな話を書いたほかの作家の小説よりもむしろ、
こちら(村上作品)に対して、事実を描いてあるかのような錯覚やら
思い込みやらの感覚になってしまい、そして「こんなことあるはずない!」などと
疑問や、時には怒りすら感じていた私でした。
本当にこれは不思議な現象なのですが、それが村上作品を読み始めた頃の私の反応でした。
そう、あるはずないのですよ・・・小説なのだから・・・でも「あること」の
ように思えていたのです。
エッセイ、小説、ルポタージュなどを随分読んできて今思うのは、
村上春樹の感情を直接的に読者に押し付けてこないところが
私は好きなんだろうということです。
悲しいことを悲しいと書くのはごくごく初歩的な表現だし、涙流しただとか
モノを壊しただとか、そんな表現があれば怒り・悲しみの表現も事足りるわけです。
が、村上作品の場合は「楽しい」という言葉は出てくるかもしれないけど
およそ、直接的な感情表現は見当たらないように思います。
悲しみや迷い、そういった感情を、空の青さや、車の流れのような物理的なものを
描写することで表しているように私には思えるのです。
これがあっているかどうかはわかりませんが、私自身は少なくとも
誰もいない駅のホームで風を受けるさまとか、本の読み方とか、
そういう、ある状態の描写そのものに毎回孤独を感じたりしています。
この表現力にも、その表現力で描いた表現にも、毎回感動してしまう。
これは一種の「奥ゆかしさ」みたいな感じでもあるかな。
私自身が、ありのままの~♪感情を人にぶつけたりぶつけられたり
ということが苦手なので、そう感じるのかもしれません。
いつも主人公が悲しがっていたり、寂しがっていたり、
人を憎んでいたり・・・みたいなお話を私は読みたくないです。
無論そのほうが誰にとってもわかりやすいとは思うけど、
とにかくそういう小説は、読んでいても疲れるだけ。
一言だけではなんだかよくわからないお話だし、決して論理的に
終結するわけでもない。
(で、結局?)みたいな印象は誰にでも残りそう。
ただ、常に人なんて行き場のない未解決な案件を抱えて生きているわけだし、
一度解決したことだって、後になってああすれば良かった、こうすれば
良かったなんて反芻するものなのだから、ここ(小説内)に具体的な
結末がなくても別にかまわないような気がします。
起承転結よりも、はじめから終わりに至るまでの間のどこかで
ふわっと感情移入できたりしたら、それで私はいいのかなと
今は思っています。
このわかりづらいお話については、だから前回も今回も、小説そのものに
ついての感想がなかなかかけないんだと思います。
でもねえ、この読者との距離感、それから作者の自分の感情との
距離感がとても心地よいですね。
ものごとを客観的に見ることのできる、冷静で知的な能力ゆえだと思うな。
深読みしようと思えばいくらでも出来るし、話表面をざっとさらうだけでも
好みのテーマ(双子、ピンボール、ジャズ、配電盤・・・などなど)が
もしひとつでもあれば、それはそれで楽しめるかもしれません。
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このところ10日くらい、毎日毎日短編「午後の最後の芝生」を
読み返しています。
ここでもあまり感情表現がない・・・けど、とにかくふとした
表現ひとつひとつに胸を突かれるようで、とても好きな作品です。
悲しみは誰の心の内にもある。質も量も違うとしても。
それをさっきまで未知の相手だった人とほんのわずかな時間を
共有し感じ合い、すれ違っていく・・・そんな感じの小説が
村上作品には多いような気がします。
共有するといっても、本当に共に過ごした短い時間だけであって
具体的な悲しみの原因そのものを語り合うこともないし
どんなに自分が悲しいかを語り合うこともない。
そしてその後の関係性に発展していくこともない。
でもそれで十分なのはわかるなあ。
多分、他人としての「悲しみ処理係」を必要としていない、というよりも
他人をそういう存在にしたくないんじゃないかなと思う。
私自身が村上小説に共感を覚える理由は、そこにこそあるのかなと
最近思っているのでありまする。
1973年のピンボール (講談社文庫)/講談社

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「午後の最後の芝生」は下記の2冊で読みましたが、この作品に限らず
多くの短編に「象の消滅」に収録する際に手を入れたそうで、微妙に表現が異なります。
私個人は手を入れる前のものの方が全般的に好きですね。
ちょっと荒削りな方が、全体に漂う孤独感にはふさわしく感じます。
中国行きのスロウ・ボート (中公文庫)/中央公論社

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「象の消滅」 短篇選集 1980-1991/新潮社

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