2011年以来の再読。
先日読んだ「村上ハイブ・リット」にあった「レーダーホーゼン」を
初期版として読むため、そしてある程度の数を読了した今、
以前読んだ初期のものをどんなふうに感じるかを確かめるため。
面倒くさい人間選手権、上位入賞者のワタクシですから~。
まず良かったのは、前書きですね。
前書きよりも後書きの方が春樹さんの場合は多いように思いますが、
いずれにせよ私は大抵、本編よりもこういうものに惹かれます。
そして今回もそれは同様で、特に書く事の効用について書かれた
ものがとても興味深かった。
一読しただけではわかりづらいので、ここは何度も読み返したものの、
最終的に理解できたかどうかはわかりませんが・・・。
ただ、後の河合隼雄さんとの対談で「井戸掘り」という言葉により
表現していた自分の内面を掘り下げていく作業、そこにつながる
ものなのかもしれないと言う気もする。
短編たちそのものは特にどれもオチがなくて、私自身はわりと
さっぱりとした感じでいずれも読み終えた。
いつものようにあれこれと、ああなっていたらどうなっていたかな
などと、いつまでも引っ張られることもなかった。
でも多分、この短編たちのいくつかの断片が私の中に、
(春樹さんの言う)オリのようにたまっていくのかもしれない。
作者本人は、これらの作品は人から聞いた事実を小説という枠にいれ
いずれは長編にするかもしれないという予感を持ちながら
書いたという。
そのことは私もいくつかの作品を読んでみて、これはあの作品、
この作品へと言うような、つながりを多々感じる。
でも少し前にも書いたことがあるけれど、1篇、2篇の長編への
発展という目先のものではなくて、もっと大きくて立体的な
村上ワールドを作り上げるパーツのようなものを準備して
いるように見える。
つまり1つの短編から長編が生まれてそれでおしまいなのではなく
その長編が1個のパーツとして全体像ができあがるのを待機して
いるような感じですね。
パーツ単体でも十分機能する水準に達しているとしても。
う~ん、かなり抽象的な表現になってしまいましたね・・・。
さて懸案の「レーダーホーゼン」の再読です。
この作品は「回転木馬の・・・」に収録された短編ですが、
後にアメリカで翻訳出版されています。
で「ハイブ・リット」では、この英訳されたものを元に
春樹氏ご本人が、日本語に翻訳し直して掲載されているのです。
面倒くさい方ですが、私はこういう村上春樹の行動が好きですね。
というわけで「ハイブ・リット」版も読み返してみた。
まず冒頭部の、この話のそもそもの提供者である女性についての
詳細な説明がほとんどなくなっており、全体的に文体も
シャープですっきりとした感じになっています。
英文を見ると、もうこの時点で原文の長い説明がかなり省かれている。
英訳者が翻訳の段階で随分削ったのでしょうか。
それをテキストに春樹氏が新たに翻訳しているので、自分オリジナル
より目の前にある英文を尊重して訳しているわけですね。
「回転木馬」に収録されたものは、妻の友達と書き手(春樹氏)の
間には結構距離がありそうだけれど、「ハイブ・リット」では、
もっと親密な感じがした。
妻を通じての友人というよりも、自分もまた元々の友人のひとりで
あるような印象で、かなり距離の近いとても親しい友人関係の
ように私には見えました。
自分の作品が外国語に訳され(ここでは英語ですが)、その訳文を
読むってどんな気分でしょう。
たとえば冒頭部がかなり整理されていると書きましたが、
(へえ、他人はこの部分要らないって思うのか・・・)なんて思う
こともあるのかもしれません。
ラスト「回転木馬」では、「ぼくもそう思う」と妻の友人に
答えるのですが、「ハイブ・リット」では、彼は何も答えずただ
心の中で行き先のなくなったレーダーホーゼンについて、
思うだけです。
間にもうひとりの書き手(訳者)が存在することで随分印象は
かわりますね。
この翻訳者は春樹氏とも旧知の仲だったように思いますが、
この英語版を下に訳された他の言語の翻訳書の場合は
直接春樹氏に、不明点を確認することもないだろうと思う。
結構翻訳者の思い込みで誤解の混じった、春樹氏の原本とは
微妙に異なる同名異書(?)がこの世には多々存在しているかも。
なかなか興味深いです。
ぜひスペイン語バージョンを読んでみたいですね。
ところで時々、人から「村上春樹の小説でおすすめは?」と
聞かれることがあるのですが、難しいですね。
どの作家でもそうだけれど、特に村上春樹はあの独特の世界に
いきなり入れる人とはいれない人がいると思うので・・・私は
もともと入れなかった人間ですから・・・でもそれでダメだ!と
決めつけてしまったら、本当にもったいないと思います。
誰もが村上春樹が良いって言うからあえて読まない方も
いると思いますが、それももったいない。
私自身も初対面の方に「村上ファンです」っていうのは
かなり躊躇がありますので、気持ちはよくよく分かりますが。
エッセイ読んで気に入ったら、短編に。
短編もOKだったら、少し古い長編小説に・・・って感じが
良いんじゃないかな。
春樹未体験者がいきなり「IQ84」は無理かも・・・って
個人的には思います。
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