「第三の男」「堕ちた偶像」「負けた者がみな貰う」の3作品が収録されています。
グリーンは日本でとても人気があるそうで、だからこんな全集も出ているのですが
私の周りにグリーンファンが居たためしがないので、このマニアックな全集の
買い手はどのくらいいるんだろうと、実は疑問に思っていました。
でも装丁が渋くてこのシリーズはとても好感が持てます。
「第三の男」
いわずと知れた名画の原作で、1年ほど前に文庫で読みました。
その文庫はダンボールに入れてしまったので、掘り出すことはすぐにできませんが、
どうもこちらの全集バージョンのほうが内容のボリュームがありそうな気がします。
が、訳者も出版社も同じなので、やはり私の勘違いなのかなあ・・・。
映画のために書かれた小説ということなので、忠実に映画が作られていることが
よくわかり、映画のシーンのあれこれが目に浮かびます。
これは以前にも書いたことですが、ハリーがどうしても悪人に思えない。
映画でのオーソン・ウエルズの演じ方、あるいは彼の犯罪がもたらした
結果の具体的な表現が映画にも小説にもないからかもしれませんが、
ハリーの友人のロロが裏切りものに見えて仕方なかった。
視点というのは不思議なものですね。
再読した今のほうが小説そのものは好きになっている・・・また今後も
読むことになるとは思うけど・・・でもやっぱり「第三の男」は
映画のほうが勝ちだと思います。
9/16追記 文庫本が出てきましたが、やはり文字の大きさページ数からみても
ハードカバーとは分量が全く違うと思います。
文庫版は確かに唐突な印象でわかりきれない部分が残ったのも事実だったし、
多分一部編集か割愛してあるように思います。
「堕ちた偶像」
聴いたことがあるタイトルだと思っていたら、「第三の男」以前に
やはりキャロル・リードが映画にしているのだそう。
原題は「地下室」で、小説そのもののタイトルはそちらのほうが
マッチしていると思う。
大使の息子フィリップは大使館付きの執事ベインズに心酔している。
彼の冒険譚を聞くのも好き。
そのベインズには愛人がおり、ベインズの妻(かなりの悪妻)が
気付いてしまう。やがてベインズは妻を殺害してしまう。
フィリップはそのやりとりと、その後の警察の事情聴取も見ているのだが、
現実のベインズの姿を見て失望し殻に閉じこもってしまう。
はっきり書いていないけれど、年をとったフィリップの回想ではないのかと
思える描写が何箇所かあり、そこでのフィリップは自責の念に駆られて
いるように見える。
作者が何を言いたいのか・・・私には実は良くわからない。
けれども、こんな流れの心の動きはありがちなことだと思う。
教訓を残そうとしているわけではないだろう。
「負けた者がみな貰う」
ハードボイルド小説?なんて感じのタイトルですが、
まじめにかかれたコメディ?という印象です。
あまりうだつのあがらないバツイチの40代男性が
15歳年下の女性とつつましく結婚式を挙げることになる。
会社の業績を表す数字の異常を彼が指摘したことで
経営者のひとりから、モンテ・カルロでの結婚式を
プレゼントすることを申し出られる。
ところが実際には何日たっても申し出た人物は現れず
ふたりの持ち金は減るばかり。
そこで男性はカジノに出かけていく。
ギャンブル嫌いを自負する男性だったが、
次第にギャンブルにのめりこみ、そして負け、
ますます窮地に陥るものの、あるときから急に
勝負強くなる。
それとともに、新婚の妻の心は彼から離れていってしまう。
行きずりの他人と袖振り合いながら、結局ふたりが
元の鞘に納まるまでを描いたお話。
地位的には裕福とは言い得ないであろう、二人の会話が
異様なくらいに品がよくて美しいのに面食らってしまった。
上流階級レベルの会話・・・でもグリーンの作品に出てくる
女性はみな、確かに品がある方ばかりですが。
タイトルの「負けた者がみな貰う」、この意味をはかりかねています。
「負けるが勝ち」ってことなのか、「負けた者は何もかも負うべきだ」という
ことなのか・・・と。
小説としては、私的にはまあまあで、あまり良さがわからなかったのが
正直なところ。
グレアム・グリーン全集〈11〉第三の男/落ちた偶像/負けた者がみな貰う/早川書房

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