「新編 懐古的洋食事情」  市川ジュン | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.

市川ジュンさんも昔からの漫画家さんですが、
すっかりその存在を忘れていました。
代表作が何だったかも実は覚えていないけど、
集英社の雑誌ではほぼレギュラーだったように思います。
数年前、久しぶりに書店でこれを見つけて買ってみました。

連載時は時代に無関係に発表されていたようですが、
文庫では、時代順に並べ替えたのだそう。
まず1巻は明治初期から大正時代
そして2巻は大正時代後半から昭和初期まで
第3巻には昭和初期から戦後までが描かれていますが
残念ながら今日は3巻が見当たらず1,2巻のみ。

雰囲気全体が、ものすごく私好みの作品です。
どちらかというと西洋寄りの和洋折衷で、ちょっとスノッブ。
貴族の雅で伝統的な世界と、現実的な庶民やモダンガール(?)の
世界という完全分離していたものがシンクロしていく時代の
面白さ。
そしてなんといっても、洋食にまつわるストーリーが
読み手をとにかくワクワクさせてくれます。
私たちにとってはもうすっかりおなじみの洋食の数々では
ありますが、それらにも「誕生の時」があったわけで
そのあたりを時代ごとの女性の生き方に関わらせつつ、
大変おいしく料理してくださっています。

登場するのも好人物ばかりで、意地悪な人がいない。
女性は元気良く好奇心が旺盛で、良い意味での
「ますらをぶり」。
男性は知的でフェミニストで見目麗しい、
やはり良い意味での「たをやめぶり」。
(↑あえての表現で、勘違いではありません。念のため。)
とにかく登場する皆様すべてが魅力的でした。

洋食屋の娘が伯家に嫁ぐ「伯爵家の台所」だけは
雑誌で読んだことがあったのですが、これは
一番の私のお気に入り作品です。

お手伝いさんたちの作る完璧な食事が日常の伯爵家、
そこに嫁いだ新妻たけをさん。
奥様厨房に入るべからず、の禁を破って伯爵家の台所に
彼女のお得意の洋食(フランス料理ではなく洋食屋さんの洋食)で
新しい風を入れます。
その風はやがて伯爵家全体に及ぶことでしょう。

たけをのやり方に難を示す女中頭に、たけをが語る言葉が
私はこの作品をはじめて読んだときから大好きです。
どんな時代にも変化があり、そしてその変化は
迷いも躊躇も伴うもの。でもたけをは、そういう瞬間を
目の当たりにできることは感動的なことではないか・・・
といった趣旨のことを語るのです。私も全く同感ですね。
ついつい保守的になりがちの今日この頃ですが、
やはり人生こうでなくちゃ~!

そしてまた、この若き伯爵のご主人様がなんとも言えずに
素敵なのですわ。
丸ごとたけをを信じて「君の務めはこの家に新しい風を
入れることだ。」・・・な~んてね~。麗しい!

こんな素敵な人物像を描く方だったのかと,市川先生の
お力を再認識しました。
この作品は「陽の末裔」という長編のアナザーストーリーズ
なのだそうですが、本編もぜひ読んでみたいと思います。


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