「半神」   萩尾望都 | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.

16頁の短編ながら、萩尾望都を代表する作品のひとつと
言われる「半神」です。
読了した誰もが、大なり小なり衝撃を受ける作品なのですが
では、どこがどのように?となると、これがまたなかなか
表現しがたいものだったりします。

何年もの間に渡り、何度も読んできた作品です。
なのに、実は今日はじめて意識した(と思う)のですが、
「半神」なんですね、「半身」じゃなく・・・。
双子のうちのひとりが、というお話なので、確かにタイトル
としては「半神」と頭にはあるものの、感覚としては
「半身」だったのです。私は何見ていたんだろう?
びっくりしたなあ。

腰でつながったシャム双子。
姉のユージーは、知能も高いが栄養不足で、干からびた
ような容姿。
妹ユーシーは、ユージーが全力で作る栄養をほぼ全て
吸い上げて、天使のように美しい。
でも知能は低く、言葉も話せずただ笑っているだけ。

このままではふたりが共倒れになるため、せめて一人だけは
生かしてはどうか、という医師の意見により、ふたりは
切り離される。

ユージーの術後経過は良いのだが、栄養の作れない
ユーシーはもはや死に直面した状態にある。
そんな妹に久しぶりにあったユージーが見たのは、
つい先日まで鏡のなかに見ていた、干からびた自分
そのものの姿だった。

私は子供の頃よく、誰か他の人のことをいろいろ考えて
あの人の中身が私だったら、あの人の人生は、そしてまた
この私の人生は、一体どうなっていただろうなどと
とりとめなく考えることがよくありました。

そしてぼんやりと、誰かの中にいたかもしれない私は
やはりこの私ではなく、あの私なんだろうな、
なんてことを思っていたのですけど、わかるかな?
・・・わかんないよね・・・だよね~。

でも、私はユージーがかつての自分と同じように
干からびた状態で、ベッドに横たわる瀕死のユーシーに
会うシーンを見るたびに、昔よく考えていた
「他人の中にいたかもしれない自分」のことを思い出します。

妹の中にいたかもしれない自分、
自分の中にいたかもしれない妹、
それでも生きていく。
自分自身として、そして妹として。
辛いですねえ。

チャンドラーの「大いなる眠り」にもありましたが、
亡くなってしまった人とっては、もうどこに埋められようと
自分がどう扱われようと、全く預かり知らないことになる。
罪の意識も辛い気持ちも、生きていく人だけに遺される
ものなのですね。

天使と表現されていた妹を、最後の最後「私の神」と
ユージーは呼んでいます。どういうことなのでしょうね?
いつもいつもわからないことが残ってしまうけど。

「半神」という言葉に、何か意味があるのか調べて見た。
WIKIPEDIAによると・・・
「半神(英語:demigod)は、片親が神であり
もう片親が人である人物。

半神は寿命を持ち、人と同じように殺される存在であるが
能力は常人のそれを超えていることが多く、神のように
特殊な力を持つこともある。

ギリシア神話に登場する英雄の多くは半神である。
その中でも数多くの女性を愛したゼウスの子供が最も多く、
逆に女性の神との間から生まれた半神はアエネアスや
アキレウスなど存在はしているものの少数である。」

・・・だそうですよ。
まだわからないけど、物理的に引き離されたうちの
ひとり(半身)ということでは、やはりないのですよね。

収録作品でもう一つ印象的なのは、原稿を紛失して
しまったという「あそび玉」でしょうか。
印刷されたものをホワイト修正で蘇らせたという作品で
たしかに、線などかなり歪んでいますが、このあと
再び読むことができるかどうか・・・貴重です。

コンピュータに管理された社会の中で、自分が超能力者で
あることに気づいた少年。
この時代、ここでは超能力者の存在は許されていません。
親でさえ、市民としての義務を果たすため、この子供の
能力を通報するかを迷います。
与えられた超能力を使って、少年は逃げ出しますが、
結局逃亡の果てに説得されて彼は投降します。

多分もう少し古い作品に「ポーチで少女が子犬と」と
いうごくごく短いものがありましたが、あれと同様に
彼が処分されてしまうものと思っていました。
なのでこの結末は意外・・・というか、最近まで読んで
いなかったから気がつきませんでしたが、これは
作者違いといえども、竹宮先生の「地球へ・・・」の
前段階みたいな作品だったのですねえ。すご~い。

「ラーギニー」
「銀の三角」を思わせる神話的な作品。
でも実は巨大コンピューター内で起きた
事故で、気を失っていた彼が見ていた夢。
誰が見せたんだろう、あの夢。

「酔夢」
同じく「銀の三角」「A-A'」を彷彿とさせる、
輪廻転生のようなお話。結構好き。

「スロー・ダウン」
隔離された何もない部屋でどれだけ耐えられるかの
被験者となった少年が、実験後、現実社会に生きる
実感を得ることができず苦悩する。

「ハーバル・ビューティ」
テンポのいいSFです。読んでいて楽しい。

「マリーン」
このメビウスの輪のような、始まりも終わりも
不確かな追いかけっこは、萩尾作品にはよくある。
先の「酔夢」なども、同じ系列と言えなくはないかな。

その他、イラストエッセイが数編。
例によって、ざっとしか読んでない。
漫画の中のモノログは好きなので
我ながら不思議ですが・・・。

今回は作品集を読みました。文庫版とは収録作品が
異なります。
文庫の最後のお話(タイトル失念)は、ブラッドベリの
「集会」を彷彿させる良い作品で一読の価値ありです。

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