谷崎潤一郎賞受賞の桐野夏生作品です。
映画化もされたので、あらすじはご存知の方も多いかも。
ヨットでの世界一周クルージング中、暴風雨にあい無人島に漂着した夫婦。
サバイバル生活を送るさなかに、まず日本人の若者の集団が、続いて中国人の
集団が漂着し島民は31人となる。
最初の漂流者・清子を除くと、あとはすべてが男性で、彼女は島の女王として
君臨するようになるのだが・・・。
読み始めはグロテスクさにちょっと気持ち悪くなり、途中からはなんだか話が退屈で
読書のテンションがあまり上がらなかったのが時間のかかった理由です。
そうなんですね~、ワタクシ的には好みの作品じゃなかったです。
解説読むと、当初は第1章だけの書き下ろしの予定が、もっと物語が広がりそうと
いうことで2章以降が書き足されたらしいです。
でも、当初の予定通りで終えていたほうが良かったような気がするな~。
書き足されたのは、島民のそれぞれの過去と現在(でも日本人のものだけ)、
また、彼女たちのその後ですが、その後はともかく、島民のそれぞれの人生が
入ることで話が薄まってしまったような気がします。
第1章のグロテスクさだけ生かしておいたほうが印象が強そう。
途中からはファンタジーとかブラックなコメディのような気がしてきました。
桐野さんて女性作家なんだけど、結構萩尾センセー的な視線の持ち主かなという印象。
つまりあまり女の人自体を好きじゃない・・・というか蔑視しているのかも。
15少年漂流記のレビューを書いたとき、たとえば漂流者の年齢がもっと高かったり
女性が混じっていたらこうはいかなかっただろう、というようなことを
書いた覚えがありますが、図らずもこのお話はそんな条件だったのですね。
映画では、木村多江さんが清子役でしたが、彼女は薄幸の麗人的イメージで美しすぎる。
私は映画を見ていませんが、予告編などで見た彼女の表情がどうしても読んでいる時に
ちらついてしまって余計違和感を持ってしまったのかもしれません。
小説の中での清子は、あまり美しいとはいえないようだし年齢も46歳。
日本ではそこそこの生活をしていたであろうことは伺えるのですが、にしても
それまでは目立たないおとなしい女性という設定です。
それがこの島で、男性たちに性的な対象としてあがめられ、その状況に
自ら酔いしれていくことに。
意外とこんな感じで、この世界を楽しみつつも日本に帰りたいと言う欲求は
だれよりも強い人で、そのことでは作中でもかなり物議を醸したりもします。
そういう彼女が女王扱いされるのはあくまでもこの島の中だけの話で終わり、
元の世界に戻ったら、この時代とのギャップに苦しむことになるのかも、
と思いながら読んでいました。でもほんとに逞しい人なの。
最後の最後、やはりタダ者ではなかったことが明らかになりますが
これが彼女に限らず、もし女性の根本がこんなふうに愚かででも逞しいものだと
書きたいのだとしたら、こういった形での表現は同性としてはとてもいやだな~。
何か書き足りない気がしますが、今思っているのはこんな感じ。
無人島と言う小さな空間と極限に近い状況の中での人間ドラマにしては
ちょっと物足りない気がしました。
興味深いのは日本人たちはそれでも秩序を持って、組織を作っていくことを工夫し
中国人たちは野生そのままでたくましい、そんな国民性的なものが見えたところでしょうか。
さらにあとからまだ漂流者は増えて国際色豊かに、まさにスモールワールドをなして
いくことになります。
ご存知の方も多いとは思いますが、このお話のモデルとなった事件があるそう。
ご興味あればこちらで「アナタハン事件」。
映画の予告編。大竹しのぶ様の怪演で見てみたいですね。
東京島/桐野 夏生

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