「天国に一番近い島」   森村 桂 | MARIA MANIATICA

MARIA MANIATICA

ASI ES LA VIDA.

実家に戻ると時々するのは、昔買った古い本を読むこと。


小中学生向けの文学全集などは何度読んでも楽しい。

私が好きなもののひとつに、「小公女」があります。

あの中に温かいぶどうパンをパン屋さんからもらって帰る

描写があるのですが、あれがたまらなく食欲を誘う・・・

いや、かなり悲しいシーンなのですが、パンの温かさや

香りまで伝わってきそうな日本語訳が本当に素敵でした。


さて、今回読んできたのは故・森村桂さんの

「天国に一番近い島」です。

高校時代に読んで、衝撃を受け、以後ほとんどの本を

購入して読みふけりました。

バイタリティあふれ、海外が遠いあの時代に

彼女の本を読んで、見知らぬ土地や、彼女の行動力

そのものに憧れたり、また、こんな文章なら

私も書けるかも・・・なんてささやかな夢を見ることが

できたり・・・いろいろな意味で影響を受けました。


でも次第に、彼女の書くことに違和感を感じるように

なってきたのも事実で、そこに離婚問題が起こり、

私は完全に彼女から離れたように思います。


選民意識の強い人,芯が強そうで実はとてももろそうな人

・・・というのが最後の頃に私が持っていた

森村桂感です。


それでもこの「天国に一番近い島」は、何のとりえもない

普通(ではなかったと思うが)の女の子が

海外行きを自力でつかんだこと・・しかも実話・・

とあっては、当時の私には夢のような素敵なお話でした。


彼女みたいになりたい、彼女みたいにやってみようと

思った女性が当時どれだけいただろうと思います。

きっと、彼女をまねて、見知らぬ会社の社長に手紙を

出した女性も多数いたのだろうと思います。


私にとっても、こんな風に生きてみたいと思った

最初の女性作家だったように思います。


2004年に訃報を聞いた時は驚きましたが

その死因が自殺と聞いた時は、驚きよりも

「やっぱり」と、納得したような気持ちでした。


異常なまでのハイテンション、

集中力の落差、

嫉妬心と優越感、

身体的ことだけが原因とは明らかに思えない

体調不良


・・・などなど、過去の作品から、なんとなく

彼女の精神状態に異質なものを感じ取っていたので。


それでも、いま読み返すとやはりいい本です。


1984年には、原田知世さん主演で映画にもなり、

新潮文庫の表紙も、リニューアルされました。

今は、彼女の本はかなり廃刊になっているらしいですね。


もう海外に行くことへの垣根もかなり低くなっているし、

こんなにものを真剣に考えたりする若者も

少なくなっていることでしょうから、読んで感動する

人も少ないかなと思います。


私にとっては、20年前のスペイン行きと

重なる部分もかなりあり、そうそう!と共感できる

部分もたくさんあります。

あの頃、インターネットがあって、スカイプや

電子メールがあったら、私もあれ程の悲壮感を

持って帰国することもなかっただろうし、これほど

スペインを思う気持ちは続かなかっただろうと思います。


話がそれますが、今、夏目漱石の「こころ」などを

読み返してみると、あまりにも生真面目な人たちが

滑稽にさえみえてしまうことがあります。


でも、何も便利なものが何もない時代だったからこそ、

精神も高く持てたのかな、と思うし、

得難いものも残っているのかなとも思います。


今の10代、20代、あるいは30代の方が

この本を読んだら、どんな感想を持つのか

ぜひ伺ってみたいものです。


年代的には私の母の世代に近い、昭和15年の生まれ。

ずいぶん年上だったのですね。

改めてご冥福をお祈りいたします。


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