私がお風呂に入るまでの時間を長引かせたことが影響して、そろそろ部屋を出ないと延長料金が発生する時間となってしまいました。
正直に言うと最初は全く期待をしていなかったのですが、実際に体を合わせてみて明さんのテクがとても素晴らしいことが分かって〝もう少し続けたかった〟と後ろ髪を引かれる思いでした。
二人とも急いで身支度を始めて忘れ物がないことを確認し、私が先に部屋から出ようとしていたところに背後から、
「良かった!」
と言う明さんの声が聞こえてきました。
思わぬ声に振り向くと明さんは私のもとに駆け寄ってきて左頬に軽くキスをしました。
私は既に満足感でいっぱいでしたが、明さんも満足してくれたのかな?と少し安心しました。
ホテルを出ると近くで何か食べようという話になり、駅に向かう途中にあったファーストフード店に入りました。
そこで初めてお互いのプライベートな部分について話をしました。
出身地や学歴、家族のことや仕事のことなど色々と話をした後に、
「ところで下の名前を聞いていないけれど何ていうの?」
と明さん。
私は少し戸惑いながら、
「そうでしたね。まだ下の名前を教えていませんでしたね。理子(りこ)と言います」
「これからは理子ちゃんと呼べば良いかな?」
「いえ、理子さんでお願いします」
「俺、奥さんのこと〝ちゃん付け〟で呼んでいるから〝理子ちゃん〟で良いかと思ったけれど〝理子さん〟ね、分かった」
その後も互いの話が尽きることはありませんでしたが、時計を見ると22時近くになっていました。
「私明日も仕事があるのでそろそろ帰りたいのですが良いですか?」
「今何時?」
「21時50分です」
私が席から立ち上がって帰ろうとすると、明さんは私の左腕を強く掴んだのです。
「さっき22時まで大丈夫って言ってたよね?」
「でもあと10分で22時ですよ」
「まだ10分ある」
その時私は明さんのことを『少し怖い人だな』と思ってしまったのですが、後から考えてみれば、私が約束を守らなかったことで明さんにそのような行動を取らせてしまったと思うと同時に、その僅か10分でも私と一緒にいたかったことが良く分かったのでした。
翌朝通勤電車の中から、
【昨日は色々とお世話になりました。一昨日は緊張していて寝不足気味とのことでしたが、昨夜はぐっすり眠れましたか?】
とメッセージを送ると、
【興奮して眠れませんでした】
と返信がありました。
明さんはその日海外へと旅立ちました。