その日は仕事が終わった後に職場から2つ離れた駅で待ち合わせをしていました。

午後になると天気予報の通りに雲行きは怪しくなり帰宅時間には夕立が激しくなっていました。

出来るだけ濡れないように気を付けながら土砂降りの中を明さんのもとに向かいました。

明さんと会うのは2ヶ月振りでしたが、最初に会った時とは随分違う印象を受けました。

顔は少々強張り言葉数も少なくずっと携帯電話の地図情報を気にしている様子。

私が何を話しかけてもずっと上の空でした。

待ち合わせ場所から10分ほど歩いた先に明さんが予め調べていたラブホテルがありました。

ラブホテルに入るのは10年振り、元彼と行ったのが最後になります。

明さんも随分久し振りのようでした。

私の方から誘ったとはいえ、部屋のドアが閉まると緊張と恥ずかしさが一気に込み上げてきました。

ソファーに荷物を置いて一人で座っていると、明さんはベッドの脇に荷物を置いて早々とお風呂にお湯を入れ始めました。

先程とは違って表情も明るく饒舌になっています。

私は仕事上がりで疲れていたこともあって最初のうちは不機嫌な態度をとっていました。

それでも中々気持ちは落ち着かず、次第に「ホテルに誘って本当に良かったのか」と後悔の念を抱き始める中で、明さんのウキウキした様子を見ていると、益々腹立たしい感情が芽生えてくるのでした。

「お風呂一緒に入らない?」

「えっ?嫌!先に入って!」

「いや、先に入って。俺が後で入るから」

「いや、先に入って!」

「いや、先に入って!!」

明さんは自分が先にお風呂に入ったらその間に私が部屋から逃げ出してしまうとでも思ったのでしょうか。

押し問答をしていても仕方がないので、私は覚悟を決めて先にお風呂に入りベッドの中で待つことにしました。