その2では砲側庫を見て行きます。

 

 

砲側庫は砲座の数と同じく5つあったと思われますが、現存するのは第四号と第五号の2つとなります。

 

第四号砲側庫です。

 

下関要塞における明治20年代前半に構築された砲側庫は、火ノ山、筋山、田向山そして笹尾山の4か所に現存していますが、すべてこの形状となります。なお正面の壁はレンガ積みモルタル塗りです。

 

扉の上に第四号の文字が掲げられています。

 

窓に木枠が残っていていい感じです♪

 

内部は総レンガ積みで、奥行は約10mです。

 

内部より入口側を見ていますが美しいですね。

 

砲側庫を始めとした掩蔽部の天井は穹窿(アーチ)の形を為しています。要塞築城初期はレンガ積みでしたが、明治20年代半ばごろを境として、穹窿部は対弾性を強化するためにコンクリートが用いられるようになりました。よって総レンガ積みが見られるのは、明治10年代~20年代前半に築城されていた下関要塞、由良要塞、東京湾要塞の砲側庫だけとなります。ちなみに対馬要塞の第1期築城年も明治21年なのですが、こちらはレンガが一切使われておらず石材のみで組まれています。

 

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砲側庫の壁を見ています。穹窿アーチのレンガの積み方は長手積みですが、側壁はフランドル積みとなっています。

 

明治20年代前半までの要塞築城初期はフランドル(フランス)積みが主流、その後強度が高めのイギリス積みとなりました。各々の積み方はこんな感じです。

 

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奥の壁の上方に横長通気口の孔が開いています。

 

通気口の上部は写真のように開口しています。

 

蓋の取り付け部かな?

 

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第四号砲側庫の前から右斜め前方に目をやると、第五号砲側庫が見えます。

 

笹尾山砲台には5つの砲座が横一線に配置されていましたので付属する砲側庫も並列に置かれているはずなのですが、第五号砲側庫はまったく違う方向を向いています。冒頭の見取図から該当箇所を拡大するとこんな感じです。

 

 

なぜ第5砲座の左隣に置かれなかったのでしょう?

あくまで推測ですが、第5砲座の左横墻に置くスペースがなかった、もしくは掘開が難しかったので斜め後方配置となった...と言うところでしょうか?


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第五号砲側庫です。第四号とは違って両翼が広がっています。

 

正面より見ています。

 

正面の壁はレンガ積みモルタル塗りですが、破損部分からフランドル積みであることが分かります。

 

内部です。第四号はガラクタばかりでしたがこちらにはゴミが一切ありません。

 

第四号の通気孔はモルタル?が塗られていましたが、第五号はレンガのままです。ちなみに地上部の排出口は確認できませんでした。

 

向かって右側の壁の先端部が破壊されています。

 

壁の裏側に回ると、なんと砲側庫の外壁が露出していますw(゜o゜)w

 

正面向かって右側面が露出しています。本来は土の中に埋もれている部分ですが、山(翼墻)が削られているおかげで見ることができているので本当に貴重です。

 

内壁は総レンガ積みでしたが、外壁はコンクリート、、、って言うか、破損部分を見るとレンガ積みの上にモルタルを塗っているようです。

 

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さて、本来埋もれている部分がなぜ露出しているのでしょう?

ここで昭和50年(1975)に撮影された空撮を見てみます。

 

砲側庫周辺がよく写っていますが、第4号と第5号の間に当時はなかった道路が2本建設されています。そして道路を通すために翼墻が削られているのがはっきり見て取れますので、この作業時に第5号砲側庫の外壁が露出したと推測されます。

 

道路は現在使用されておらずヤブっていますが、道筋は確認できます。

 

以上、現存する2つの砲側庫の紹介でした。

「その3」では第5砲座の考察を行います。

 

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[参考資料]

「現代本邦築城史」第二部 第三巻 下関要塞築城史(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)

「日本築城史-近代の沿岸築城と要塞」(浄法寺朝美著、原書房)

「明治期国土防衛史」(原剛著、錦正社)

「日本の大砲」(竹内昭, 佐山二郎 共著、出版協同社)

「国土地理院 地図・空中写真閲覧サービス」

「下の関海峡防禦笹尾砲台監視路及弾室増築の件」(Ref No.C02030409600 アジア歴史史料センター)

「笠尾山砲台観測所設置の件」(Ref No.C02030225300 アジア歴史史料センター)

「下関要塞除籍砲台補助建設物利用の件」(Ref No.C03011066100. アジア歴史史料センター)

「基隆要塞大武崙堡塁一部改築竣功図書進達の件」(Ref No.C02030499400 アジア歴史史料センター)

「建築に関する書類進達下ノ関笹尾4外砲具庫精密予算書」(Ref No.C10062204600. アジア歴史史料センター)

「竣工図書類進達(笹尾山砲台付属竣工記事外)」(Ref No.C10060484400 アジア歴史史料センター)

「9月10日 築城部本部 笹尾山兵舎建築の件」(Ref No.C10071286300 アジア歴史史料センター)

「28センチ溜弾砲6門を更に3軍に増加の必要の件」(Ref No.C06040495900 アジア歴史史料センター)

「甲表 37 8年戦役間要塞備付大口径海岸砲移動一覧」(Ref No.C06040176300 アジア歴史史料センター)

「工より笹尾山砲台監守衛舎の件」(Ref No.C07050494700 アジア歴史史料センター)

「工2より 火之山外2砲台監守官舎新築の件」(Ref No.C07050333100 アジア歴史史料センター)

「金比羅山堡壘観測所移築の件」(Ref No.C03022413900 アジア歴史史料センター)