呉海軍警備隊は、呉軍港および徳山要港周辺に高角砲台や聴測照射所を配置して防空網を敷いていましたが、北の日本海や南の太平洋側にも空中・海上警戒を行う見張所を置いていました。

 

昭和20年(1945)8月の終戦時の配置図です。

 

配置図を見ると、電波で敵機接近を探知する電波探信儀(レーダー)を配備した探信所が多いですが、すべて大東亜戦争開戦後に増設されたもので、開戦時点では空中・海上を警戒する見張所だけでした。

なお島後や富高は最初から探信所として設けられましたが、日御碕、足摺岬、都井岬は元々見張所で、電波探信儀の配備が進んで探信所に転換されました。

 

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今回レポートする美保関特設見張所は、島根県の北東端に位置する美保関の馬着山(標高210m)山頂に置かれました。大東亜戦争開戦後の昭和17年(1942)2月に完成し、空中および海上の哨戒見張を任務としました。

なお『呉海軍警備日誌』には「美保ヶ関」の表記で登場することが多いですが、ここでは現在の美保関(みほのせき)で書いていきます。

 

では遺構を見に行きますが、まずは明治31年初点の美保関灯台へ。

 

美保関沖を望む場所に、昭和2年の連合艦隊演習中に発生した多重衝突事故についての説明看板が設けられています。

 

それでは山に登りますが、遊歩道が完備されているので楽に歩けます。

 

しばらく歩くと展望所が現れますが、気になったのは矢印の部分...。

 

展望所を挟んでコンクリート基礎があります。

 

めっちゃ怪しい...。

円形に縁どられた窪地があったのでは?空中聴音機の掩体や砲座?などと思いましたが、美保関見張所の装備は望遠鏡のみで大型兵器はありませんでしたので、おそらく遺構ではないかと。戦後の空中写真にも写っていませんからね。

怪しい物を見かけると何でも軍跡にしてしまうのは悪い癖です(^^;

 

美保湾がよく見えます。右から奥の陸地は鳥取県の境港市と米子市です。

 

登山口から30分弱で馬着山の山頂に到着しました。

 

山頂にある見張所の遺構はこんな感じで残っています。

 

何これ?って感じですね(^^;

水槽と思われる方形遺構と建物基礎がありますが、原形を留めていません。

 

美保関特設見張所の任務は空中および海上の警戒で、先ほども書いた通り望遠鏡のみで大型兵器を持たない見張所でした。なお冒頭の配置図に記載した見張所はすべてこのタイプでした。

兵員10名程度の小規模な施設でしたので建物も少なく、戦後の引渡目録を見ると、美保関は兵舎1、付属施設1の2棟だけだったようです。

 

建物の間取りも分からない瓦礫状態ですが、遺構を見ていきます。

 

2本並ぶ建物基礎。

 

基礎にはボルトが残っています。写真は右手側。

 

水槽と思われる方形遺構は5つありますが、その中で一番背が高い物です。

 

背の高い水槽から登山道を挟んだ左手、やや低い位置に水槽が1つあります。

 

背の高い水槽の右手側にも1つ、さらに奥のベンチ横に1つあります。

 

右手側の水槽。上部に破損の跡があります。

 

ベンチ横の水槽も破損が見られますね。

 

この水槽脇に建物基礎が見られますので、水槽は建物外壁の天水桶かな。

 

建物内の床でしょうか。コンクリートの平板が見られます。

 

赤レンガも転がっています。

 

水槽脇から建物があったと思われる場所を見ています。背の高い水槽のある位置は一段高くなっていますね。

 

最後、5つ目の水槽です。

 

こちらの水槽脇からも全景。

 

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以上、見張所の遺構として紹介できる物はこれだけとなりますが、ここから北に向かって下って行くと、明治期に建てられた海軍望楼がありますので行ってみます。

 

北側の舳先の腕山(標高110m)の山頂に望楼が建っています。そこまでの道は不明瞭ですが、木々にピンクテープが巻かれていますので、それに従って進めば迷うことはありません。

 

腕山の山頂手前の鞍部に望楼関連の施設跡があります。

 

そして山頂に登ると望楼があります。

 

日露戦争前の明治30年代に造られた物と推察されます。

4m×4.5mほどの半円形の建物です。京都、和歌山、鹿児島、対馬に現存する望楼と形状が似ていますが、統一した規格の下で造られたのでしょうね。

全体が石造りで屋根と前方の窓部分の柱が破損していますが、原形は留めています。昭和期の見張所よりよっぽど良い遺構です(笑)

 

 

以上、美保関特設見張所でした。

 

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[参考資料]

JACAR(アジア歴史資料センター)

・呉海軍警備隊戦時日誌(Ref No.C08030470300~C08030475700)

・呉鎮守府戦時日誌(Ref No.C08030329500~C08030330300)

・昭和20年9月1日 兵器軍需品施設等目録 呉海軍警備隊(1)(2)(Ref.No.C08011271900,C08011272000)

・徳山海軍警備隊戦時日誌(Ref No.C08030476000~C08030476200)

・兵器目録(Ref No.C08011396900)