今日は、函館山の西側、穴澗(あなま)海岸を見下ろす高台に設けられた穴澗電燈と低地観測所について簡単に記します。

 

穴澗の場所を地図で示します。

 

この場所に行くには海岸から上がるか、入江山から下るかの2択となりますが、残念ながらどちらにも立入/通行禁止を示す柵や看板が設けられています。

 

海岸側。

 

入江山側。

 

と言うことで、遺構レポは控えて説明だけにとどめます。

 

まずは穴澗電燈です。

 

◆起工:明治34年(1901年)5月1日

◆竣工:明治35年(1902年)12月8日

◆兵備:九十糎射光機1基、汽罐汽機一式

◆射光機の種類:当初はフランス製?の「ブレゲー」横置式→昭和3年(1928年)にアメリカ製の「スペリー」式に改造

◆除籍:昭和11年(1936年)に汽罐汽機、蓄電池舎等除籍

 

函館要塞に設けられた電燈所は函館山西部の穴澗と南東部の立待の2か所です。夜間において射光機(サーチライト)で海上を照射して警戒することが任務でしたが、穴澗と立待のいずれも、平時は昇降機井(電燈井)の下部に射光機を格納し、有事に照明座に引き揚げて照射するスタイルでした。これは各地で見られる明治期の電燈所と同じ作りとなります。

 

イラストで示すとコレです。(大久野島にある説明看板より)

 

 

次は穴澗低地観測所です。

 

函館山には西側の穴澗、南東側の立待、北側の高龍寺山の3か所に低地観測所が設けられました。設置された理由としては、海上を射撃する砲台は標高300mの高地に配置されましたので、霧の発生など視界不良時に対処すべく低地に観測所が置かれたのではないかと思われます。

 

穴澗には御殿山第一、第二および千畳敷砲台用に各1基、合計3基の観測所が築造されました。明治35年(1902年)9月15日に御殿山第二砲台と千畳敷砲台用が竣工、日露戦争時(明治37-38年)の戦備作業にて御殿山第一砲台用が増築されています。

日露戦争勝利後の要塞整理要領にて御殿山第一砲台は大正5年(1916年)に廃止となりましたので併せて低地観測所も除籍されましたが、御殿山第二は演習砲台に、千畳敷砲台は火砲を減らした上で昭和期にかけても存続しましたので、低地観測所もそのまま生き残りました。

なお観測所の遺構は3か所とも現存していますが、どの観測所がどの砲台付属なのかは分かりません。

 

以上、説明おわりw

遺構紹介しないとこんなもんか(^^;

 

ところで日露戦争の戦備作業を記した史料を読んでいると、「穴澗機関砲砲座 保式機関砲2」と言う記述がありました。電燈所と観測所以外に砲座もあったのか。これはちょっと気になりますね。

 

さらに史料を紐解くと、明治39年(1906年)5月に穴澗に監守衛舎建設の申出が為されている史料がありました。

砲台や関連する施設には常に兵隊がわんさか務めていたわけではなく、平時は数人が監守として置かれていただけでした。監守の寝泊まりする所が監守衛舎となりますが、この時期の函館要塞では砲台4か所に監守衛舎が置かれ、それぞれ監守が1名だけ詰めていたようです。

少人数で山の上の砲台から1㎞以上離れた穴澗地区もカバーしていたようですが、冬になると積雪で道が途絶されて見回りに行けなくなる事態が生じたため、こりゃあかんやろってことで監守増員と詰所建設の儀が為されたようです。

ただその後の別の史料には、砲兵大隊は人を割けないから監守代用として別に雇い入れる旨の儀も出されていますので、実際監守衛舎が穴澗に作られたかどうかは分かりません。

 

以上、穴澗電燈/低地観測所でした。

 

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[参考文献]

「現代本邦築城史」第二部 第八巻 津輕要塞築城史(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)

「日本築城史-近代の沿岸築城と要塞」(浄法寺朝美著、原書房)

「函館市史 通説編第一、二、三巻」(函館市史編さん室)

「函館要塞跡散策マップ」(函館市観光コンベンション部)

「函館要塞司令部定期検閲報告の件」(Ref No.C02030438700 アジア歴史資料センター)

「要塞地出張報告書」(Ref No.C02030301700 アジア歴史資料センター)

「第7師団 函館要塞検閲報告の件」(Ref No.C03022890600 アジア歴史資料センター)

「築城部 穴澗低地観測所建築の件」(Ref No.C03022798000 アジア歴史資料センター)

「函館要塞穴澗電灯建築の件」(Ref No.C02030439800 アジア歴史資料センター)

「函館要塞中穴澗に砲台監守舎1ヶ所建設の件」(Ref No.C07072085200 アジア歴史資料センター)

「砲台監守代用傭入傭人の件」(Ref No.C07072108200 アジア歴史資料センター)

「大正15年度函館要塞防禦營造物検査の件」(Ref No.C01003733200 アジア歴史資料センター)