※2024年3月31日 加筆修正

 

その2では「指揮所」を見ていきます。まずは見取図を掲載します。

 

「指揮所」は射撃指揮及び観測を行う場所で、用途毎に設けられた複数の掩体で構成されています。陸軍の高射砲陣地では、砲座が扇状(半円形)配置の時は砲座後方、円形配置の時は中央に指揮所が設置されていました。

指揮所跡は藪の中にあるため少々見難いですが、指揮所の掩体群が残っているのは全国的にも珍しいので大変貴重な遺構と言えます。

 

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足立山の指揮所では、レンガ積みモルタル塗りで被覆された掩体7つを中心に、素掘り掩体、掘り込み窪地、建物跡を各1つ確認しました。掩体の用途については後ほど考察するとして、まずは1つずつ見て行きます。

 

土塁の切れ目(入口)から窪地「A」に入ります。

 

窪地「A」の内部は広めの半地下構造となっています。

 

窪地「A」の内部から掩体「B」と「E」の間にあるレンガ壁を見ています。窪地「A」がGLマイナスであることが分かるかと。

 

掩体「B」と「E」の間にあるレンガ壁をヨリで見ていますが、この指揮所で使われているレンガはすべて鉱滓煉瓦となっています。

 

掩体「B」は直径1.4mほどの円形掩体です。

 

掩体「B」から掩体「C」そして掩体「D」と繋がっています。

 

掩体「C」です。前方は直線、後方は半円形となっています。

 

右端に物置棚のような凹みが見られます。

 

掩体「C」と掩体「D」は繋がっています。

 

掩体「D」を後方から見ています。

 

サイズは2.1m×2.3mで、隣の掩体「C」と同型同サイズです。

なお他掩体の内側被覆はモルタルが剥がれてレンガが露出していますが、掩体「D」にはモルタルがよく残っています。

 

掩体「D」にも物置棚があります。

 

掩体「E」です。前方の掩体「D」とは繋がっておらず後方に出入口があります。

 

内部の広さは2.2m×1.6mほどです。


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中央の4つの掩体を見ましたので、次は左翼側の「F」と「G」に向かいます。

 

窪地「F」です。レンガの被覆はなく素掘りのようです。

 

石積みされた交通壕を進むと...。

 

掩体「G」があります。

 

直径2.7mの円形掩体で物置棚が1つあります。

 

こちらの掩体は3年前の探索では見逃していましたが、先日にXフォロワーのはるさん(@Harukovsky)と探索した際に見つけました。やはり再訪は必要ですね。

 

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次に指揮所の右翼側を見に行きますがその前に...。

掩体「B」の後方にレンガ壁の一部が露出しています。この奥は窪地「A」ですが、ココにも掩体があったのでしょうか?

 

石積みされた交通壕の先に掩体「H」があります。

 

掩体「H」です。

 

掩体の中では一番大きく、4.5m×3.7mのやや楕円状の作りとなっています。

 

物置棚の凹みが2つあります。アーチ状に型取られているのがお洒落ですね。

 

もう1つの凹みは壊れています。

 

まっすぐ伸びた交通壕の先に掩体「I」があります。

 

掩体「I」は物置棚のない直径1.9mの円形掩体です。

 

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以上で掩体と窪地はすべて紹介しましたが、指揮所後方の削平地に建物基礎「J」が残っています。

 

建物基礎の横にコンクリート円筒。

 

セメント瓦が転がっています。

 

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「指揮所」の遺構は以上となりますが、ここで昭和18年9月に参謀本部が作成した『高射砲陣地築設要領』を紐解いてみます。

この史料には、指揮所内に整備すべき指揮および観測具の基準が以下の通り書かれています。

 

①指揮台…中隊長及び指揮小隊長位置。対空双眼鏡配備。

②測高機…3m(4m)及び6m(9m)の測高機

③航速測定器

④算定具(二式)

⑤電波標定機

⑥拡声器及び伝声管

⑦対空双眼鏡…指揮台とは別に1個

⑧高射射撃板

⑨無線平行誘導装置

⑩計算室

⑪配電盤室

⑫通信室…10人用待機室を附属する

⑬待機所…三角式建家にして半地下式とし20人を収容する

 

ここに書かれているはあくまで基準ですが、これら機器類の位置を足立山の指揮所に割り振ってみました。

 

適当に割り振った感は否めませんが(^^;

 

以上、足立山高射砲陣地の指揮所でした。

その3では兵舎などの付属施設を見ていきます。

 

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[参考資料]

「戦史叢書019巻 本土防空作戦」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)

「戦史叢書057巻 本土決戦準備<2>九州の防衛」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)

「高射第4師団配備要図」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)

「北九州高射砲隊配備要図」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)

「高射砲陣地築設要領」(Ref No.A03032195600 アジア歴史資料センター)

「高射戦史」(下志津(高射学校)修親会)

「福岡県の戦争遺跡」(福岡県教育委員会)