南岩国駅からほど近い愛宕山地域には、終戦間際に設けられた海軍の地下工場がありました。
簡単に説明をしていきます。
大正10年(1921)、海軍は広島県広村(現呉市)に「呉海軍工廠広支廠」を開設、2年後には「広海軍工廠」として独立し、航空機の生産・開発に主軸を置いた工場となりました。
大東亜戦争開戦直前の昭和16年(1941)10月には、航空機部を改編する形で「第十一海軍航空廠」が設置され、戦時下において航空機・発動機等部品の生産、整備、修理、補給を担いましたが、昭和20年5月5日の空襲で壊滅的な被害を蒙りました。
なおこれ以前の昭和19年に、空襲は避けられないとして工場設備の分散疎開が検討され始めました。昭和20年に入って本格的に実行に移され、広島県内のみならず近県への疎開が進められましたが、その一つが岩国市の愛宕山地域に設けられた地下工場でした。
門柱に掲げられた表札 (大和ミュージアム展示)
昭和20年4月、岩国海軍航空基地近隣の愛宕山地域に分工場を設置、6月には「第十一海軍航空廠岩国支廠」に改編されました。
岩国支廠では航空機月産40機を目標に掲げられましたが、呉市史第6巻に本工場の記載がありますので引用します。
『...空襲を避けるための地下疎開工場で、「トンネルの総延長は約二キロ」にわたり、「中で働いた人は五千人とも言われたが、本土決戦用の局地戦闘機「紫電改」第一号機を完成させる直前に終戦を迎え、その役目を終えた」のである。』
紫電改
位置関係
終戦後は米軍に接収されましたが、「引渡目録」を見ると、製造設備や航空機部品及び爆弾・機銃弾を数多く所有し、愛宕山地域以外にも広範囲に置かれていたようです。
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さて、地下工場が掘られた愛宕山は元々標高120m程の里山でした。山頂付近に鎮座した愛宕神社の周辺には桜が咲き、近隣住民の憩いの場でしたが、現在では山が50m程度まで削り取られ、運動公園や病院が建設されるなど変貌を遂げています。
1960年代、米軍機の墜落危険性や騒音が問題視され、地域住民と山口県、岩国市が官民一体となって米軍基地の滑走路沖合移設を要望しました。四半世紀にわたり声を上げた結果、国は沖合移設を受け入れて1996年度より事業に着手しましたが、埋め立てに必要な土砂は愛宕山を削って提供されました。
国が始めた沖合移設に伴って山口県と岩国市が愛宕山地域開発事業を開始しました。愛宕山を掘削して土砂を提供し、その跡地に1500戸の住宅を建設するという内容でしたが、掘削土砂の搬出を終えた2007年、住宅需要の低迷と地価下落により大赤字が予想されたため、宅地造成の事業は中止となりました。
事業中止に伴い県と市は国に対して愛宕山開発用地の買取を要望しましたが、しばらくして在日米軍再編による岩国基地への艦載機部隊移転の計画が上がり、移転によって必要となる米軍住宅用地として愛宕山開発用地を国が買い取る方針を示しました。これに対して市民団体は反対運動を展開しましたが、結果的には岩国市が2012年に4分の3の用地を国に売却しました。
国に売却した4分の3の用地には、2017年に米軍住宅施設、日米共用のスポーツ施設が建設され、残る4分の1の岩国市の用地には、国立病院、介護施設、多目的公園等が設けられました。
google mapから抜粋、加筆した地図を掲載します。
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それでは現地を訪れます。
総延長2キロと言われる隧道型の地下工場ですが、開発に伴う破壊、行政による埋め戻しなどを受けながらも現存しており、複数の隧道入口を確認することができます。ただすべて閉塞されていますので、中に入ることはできません。
説明看板が立つ緑ヶ丘街区公園にやって来ました。
説明看板
説明書きから抜粋します。
隧道は3区に分かれ、第1区が翼工場、第2区が胴体工場、第3区が部品加工工場で、主坑、横坑を合わせて約2㎞に及び、内部は網目状に連結されていた。また、この公園用地には鉄筋コンクリート製の組み立て工場があった...とのこと。
見取図を拡大。
公園左手に第一区の入口があったようですが、法面工事を施して閉塞しているので隧道の外観さえも確認することができません。
立ち入ると面倒なことになりますね(゚Д゚;)
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第2区の南東側入口はいくつか見ることが出来ます。
1つ目。
2つ目。
方形に開口していますが覗いていません。地下壕にあまり興味がないので(^^;
3つ目。
4つ目が外観をはっきり確認できます。
以上、第十一海軍航空廠の疎開工場でした。
場所はこちらをクリック→→→
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[参考文献]
「兵器及軍需品格納位置図(其の1)」(Ref No.C08011323600 アジア歴史資料センター)
「兵器及軍需品格納位置図(其の2)」(Ref No.C08011323800 アジア歴史資料センター)
「兵器格納位置図(岩国地区外)」(Ref No.C08011323900 アジア歴史資料センター)
「前衛 : 日本共産党中央委員会理論政治誌 (869);2011・4」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)
「前衛 : 日本共産党中央委員会理論政治誌 (866);2011・1」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)
「軍縮問題資料 (335);2008・10」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)
「平和運動 (467);2009・11」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)
「米国戦略爆撃調査団報告 第15 153 (空幹校教資)」(国立国会図書館デジタルコレクション所蔵)













