省略も意味不明 | 日本語あれこれ研究室

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日常生活の日本語やメディアなどで接する日本語に関して、感じることを気ままに書いていきます

 

 

 ニュースの見出しに次のように書いてあったら、ぱっと一読してどう捉えますか。

 《アパルトヘイト廃止も貧困格差》

 

 これはつい先日の民放ワイドショー番組で表示された見出しだ。

 わかりにくい見出しだが、おれなら、「アパルトヘイトの廃止さえも貧困格差の原因になっている」みたいなことかな?と捉えるような気がする。

 

 でもそうではなくてこれは、「アパルトヘイトが廃止されたのになお貧困格差がある」という逆の意味なのだ。

 つまり《アパルトヘイト廃止も貧困格差》というのは《アパルトヘイトを廃止するも貧困格差がある》の省略されたものということらしい。

 「廃止するも」、つまり「廃止したのだが」という意味の部分を「廃止も」に短縮してしまったので、「するも」という〝逆説の接続助詞〟の部分が一般的な係助詞の「も」に見えてしまっていると思われる。2015年6月にも同じ問題をこのブログで書いた。

 

 この書き方は最近どんどん増えていて、特にワイドショーでは毎日のように出現している。今年になってからでも次のような見出しを見かけた。

 

 《17人救出も乗客ら少なくとも20人死亡》

 《毛ガニ漁解禁も不漁》

 《三人っ子政策大号令も国民の意識と温度差》

  《国は一食1500円を支給も安っぽいカツカレーやパンばかり》

 

 どれも、「も」のところを「するも」と読み替えると意味が分かる。見出しだから一文字でも短縮したいのだろうと初めは捉えていたが、近頃はキャスターがこのまま声に出して読むケースも増えてきて、それはさすがに日本語として違和感がある。

 次の例はネットニュースの見出し。

 

 《「うる星やつら」新規アニメ化

 ファン大歓迎も「あのハチャメチャさは今できるのか?」》

 

 一読するとおかしな文章だが、これは、《ファンは大歓迎しつつも「あのハチャメチャさは今でもできるのか」と懸念する声もある》というような内容をずいぶん縮めた表現だ。

 次の例は東京新聞の見出し。

 

 《バイデン大統領、プーチン氏非難は「道義的な怒り」

 政府は釈明に躍起も「権力にとどまるな」発言撤回せず》

 

 この「躍起も」の部分は、「躍起するも」という言い方はないのでその省略だという説明も成り立たず、もはや単なる「躍起だが」と同じ意味になっており、「も」の接続詞化という新次元の用法に突入しているのかも知れない。

 

 ここまで述べた用法は、枝葉を取り去って骨子だけで考えるなら要するに、

 《発射も墜落》

 《対策も事故》

 《繁盛も赤字》

 《勉強も不合格》

 みたいな構造になっているわけで、こんな省略法を新たに創作してまで意味不明な言い方を多用する必要はないとおれは思っている。