「女性は土俵から降りてください」事件 | 日本語あれこれ研究室

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日常生活の日本語やメディアなどで接する日本語に関して、感じることを気ままに書いていきます

 

 

 最近の話題の一つである「女性は土俵から降りてください」事件に興味を持ってワイドショー番組をいくつか見ていたら、気づいたことがあった。

 多くのキャスターやコメンテーターが、「女人禁制」を「にょにんきんぜい」と濁って発音している。この読み方は知らなかったので広辞苑で「きんせい(禁制)」を引くと、「室町時代にはキンゼイ」と注がある。要は日葡辞書にローマ字でそう書いてあるのだなと分かる。

 キャスターやコメンテーターたちは、これを普段から「きんぜい」と発音しているのか、今回テレビ局などからそう指導されているのか、どちらなのだろうと小さな疑問が残ったのであった。

 以上「日本語あれこれ研究室」なんてタイトルのブログなのであるから、日本語に関して一応書いてみた。

 

 いつだったか知人が、テレビで見たエピソードを話してくれた。大震災当日の、東北の被災地での出来事だ。

 津波が来るので、ある一家(A家)がクルマで高台に避難しようとしていた。A家というのは夫婦と子供(小学生くらい)の三人である。すると近所の家族(B家)が3人来て、一緒に乗せてくださいと頼んだ。クルマは乗用車で定員が5人だったので、A家の妻が「私は待ってる」と言った。「Bさんを避難させたら迎えに来て」と言うので、A家の夫は自分の子供とB家の3人を高台へ運んで降ろして、すぐに妻を迎えに戻った。そこに津波が襲い、A家の夫婦は死んだというのである。

 この話をしてくれた知人は怒っていた。緊急事態なのだから、無理やり6人乗り込めばいいし、誰かがトランクに入ったっていいではないか。津波が迫っているような時に定員なんかなぜ気にするのかと。

 

 相撲の事件の話に戻る。

ワイドショーなどでは、「女人禁制」の是非とか「男女差別」に関する諸外国の反応とかそんなことも絡めて話題を広げているのだが、問題が違うだろう。舞鶴市長が倒れた現場の映像を見ると、関係者らしき男どもが市長を取り囲んで何もせずおろおろしているところに、土俵に上った数人の女性が迷うことなく心臓マッサージを施している(その状況に対して「女性は土俵から降りてください」のアナウンスが三回被る)。

どう考えても、緊急事態の時にどうあるべきかということだけが問題の本質だ。

 

 八角理事長の謝罪も通り一遍でくだらない。相撲協会はおそらく臨機応変の判断が何もできない組織なのだろう。あの女性たちはどういう気持ちでいるのだろうか

 健康を回復したらせめて当事者である市長だけは、勇敢な彼女たちへ心からの感謝を伝えてもらいたいと、おれはそれだけを願っている。