昔、映画館では「おせんにキャラメル、ラムネにアンパン」と言って休憩時間に客席の通路を売り子がおやつを売って歩いていた。首から箱のようなものを提げて。
煎餅のことを「おせん」というのはこれ以外で聞かない言い方である。どうしてあのパターンでだけ「おせん」というのだろう?
あと、子供の頃にはアイスクリーム売りも映画館の客席で見たことがある(うちの親は買ってくれなかったが)。保冷箱に入っているとはいえ、売ってる間に溶けるのではないかと余計な心配をしていたな。
川越に一軒だけ残っている映画館である「川越スカラ座」(明治時代から寄席として営業しており、映画館になったのも昭和20年という古さ)では、実は今でも休憩時間に客席でのお菓子の販売をやっている。レトロ感の演出のためではあるが。
にしても、シネコンなどでもっぱらポップコーンが売られているのは食べるときに音がしないからでしょ? 川越スカラ座も音のしないものを売っている。昔の「おせん」はちょっとね。
学生時代のこと。とある友人が、さして親しくない女の子から映画に誘われたことがあった。デート後、そいつはおれら仲間のところに報告に来て、「その子が映画のときに何のお菓子を持ってきたと思う? 都コンブだよ」とさも汚らわしそうに言う。「音がしないもの選んできて、いい子じゃないか」と、おれらみんなはそいつを非難した。「じゃあどんなお菓子ならいいんだよ?」と問うと、「チョコレートとかさ」などと言う。
全くモテたことのなかったおれは、そいつのことを「この罰当たりめが」と思っていた。